市に虎を放つ如し



第二十九話 裁きの雷


マンハントの追っ手から逃げのびた梓を乗せたステップワゴンは高速道路を抜け織笠市に到着した。
北条院の指定した場所へともうすぐといった所であった。それと同じ頃、北条院の指定した場所に立つ高層ビル。
そのビルの一室、大きなキングサイズベッドの上で毛布一枚に裸で包まって寝息を立てている涅理の姿が。
涅理の横には北条院が横になっている。しかしピクリとも動かない。寝息も立てておらずまるで死んでいるかのようだった。
涅理は何かに気がつき起き上がり何も映っていないテレビを見つめる。
するとテレビに電源が入り、梓を乗せたステップワゴンが自分達の下へ向かっている様子を映し出した。
涅理は軽く息をつくと北条院の肩に触れる。

「貴方…明彦さん…鷹森さん達がもうすぐそこまで来てるわよ…」

涅理が声をかけると北条院からまるでパソコンの起動音のような音が聞こえてくる。
北条院は目を開けると上半身を90度起こしぴたりと停まる。
首を左右にゆっくりと曲げ首を鳴らすがその音は部品を噛み合わせるような音であった。
首を曲げ終わると北条院は人間味あふれた大きなあくびをする。

「はぁ〜良く寝たぜ。涅理、お前も良く休めたか?」

涅理は軽く微笑む。
そんな涅理の頭を北条院は優しく撫でる。

「そうか、そりゃよかった」

涅理に微笑む北条院、しかしすぐにテレビの画面に目を移し眉を細める。

「無事たどり着いたみてぇだな…まぁそうじゃねぇと面白くねぇからな」

北条院は立ち上がり服を着始める。

「ところで涅理、このビルにはどれくらい人が集まった?」
「5千人以上は集まってるわ」

北条院は楽しそうに笑う。

「ほとんどの人がギャラリーとしてビルに案内されたわ。百人位は賞金狙いで入り口に張り込んでるけど…」
「その100人以外はあの牝餓鬼を犯したい連中や陵辱されてる様子が見たい集まりって事だな!楽しみだぜ!」

北条院はにやけ笑いを漏らすが、逆に涅理は俯き不満そうな顔をする。
そんな涅理に気が付いた北条院は涅理の頬に手を当て優しい表情を向ける。

「そんな顔すんな涅理、俺がホントに愛してるのはお前だけだ」

その言葉に涅理は微笑み自身の大きなお腹をさする。
だが不意に何かに気が付き眉をしかめる。

「どうした?」
「…その百人に少し問題が発生したみたいね…」
「何があった?ちょっと見せてくれ」

北条院が催促するとテレビに映像が映し出された。
その映し出されたものを見て北条院は不適な笑みを浮かべる。

「これはこれは…予想外だな」

北条院の体が青白い電気を帯び始める。


場面は変わり、梓の乗るステップワゴン。
梓は決戦に備え静かに睡眠をとっていた。
決戦へと梓を送る東城は真剣な顔をしてステップワゴンを運転している。

「むにゃ…公太郎それは私のだよぉー」

不意に寝言を漏らす梓に思わずドキッとし梓を見る東城。
彼の緊張とは裏腹に梓はすやすやと寝息を立てていた。
東城は軽く息をつき梓の頬へと手を伸ばす。
が、顔をしかめ痛がる東城。

「いてててて!小闇さん!違うよ!変な気なんてないよ!梓ちゃんはほっといて運転しろって?してるよ!」

頭を抑えハンドルを構え直す東城だが、カーナビを見て再び真剣な顔になる。

「梓ちゃん起きて。もう着くよ」

声をかけられ目を覚まし周りを見る梓。

「むにゃ?お刺身どこに消えたー?」
「寝ぼけてないでよ、もう北条院の指定したビルに着くよ」

「北条院」という言葉を聞いて梓は打って変わって真剣な顔になる。
そして頬を軽く手で叩き気付けをし深呼吸をする。

「ほら、あの高いビルがそうだよ。すっごい高いビルだ…遠くからでも良くわかるね」

梓たちの向かう先には、天に届こうかというほどの摩天楼が建っている。
分厚い雲に覆われ月の光が届かぬ中、怪しげな光を放ちその存在を知らしめていた。

「北条院…オトシマエつけてもらうよ…!」
「だけど気をつけて梓ちゃん…北条院に会う前に下手をするとまた人が襲ってくるかも…
 僕らが向かってるところは北条院の本拠地だ。ゴールの手前で梓ちゃんに懸かった賞金を狙う奴が大勢いるはず…」

梓は先ほど人を殺めそうになった時の事を思い出した。
出来れば襲ってきて欲しくない、また自分の中の決意が揺らいでしまうかもしれないから。

「ビルの入り口がもう見えそうだね…何人くらい居るかな…?」

東城は目を凝らしビルの入り口を見る。
梓は前に乗り出すようにしビルの入り口を見つめる。
だが、人が集まっているようには見えない。
東城は首を傾げる。

「あれ?大人数だったらこの距離からでも分かると思ったけど…居ないみたいだね?」
「よかったぁ〜戦わなくてすむから北条院に万全の体制で戦えそう」

梓は安堵の息をつく。そんな梓に東城は軽く微笑む。
二人を乗せたステップワゴンはどんどんビルへと近づいていく。
近づいていくにつれ二人はビルの入り口に一人立っていることに気が付く。

「誰か立ってる…一人って事はあたしを一人で倒せる自身があるのかな?」
「北条院本人ってわけでもなさそうだね…」

誰か立っていることが分かった直後、二人は入り口の異変に気が付くのだった。
遠くからは分からなかったが、その一人の周りに百人近くの人が地面に倒れているのであった。
その光景に思わず梓は息を呑む。額に汗が浮かび上がる。
東城もその光景に気が付き真剣な顔になるが、ふいに緊張が解れた顔になる。

「あれは…もしかすると…」

東城はステップワゴンをビルの前の道路に停める。
ステップワゴンの扉を開け東城は梓に声をかける。

「行こう梓ちゃん、もう大丈夫だよ」
「え?でも…」
「大丈夫、後は北条院と戦うだけだよ」

梓は分からぬまま車から降りる。
東城は倒れてる人達を踏まぬように立っている人物へと向かっていく。
梓も東城の後を追っていく。その際に梓は倒れている人達へと目を向ける。
倒れてる人々全員息の根はあるようだがその全員の目が虚ろであった。
まるで自分が今どこに居るのかさえ分かっていないよう、体を震わせうめき声を上げている。

「梓ちゃん、こっちこっち」

梓は東城に呼ばれ唯一立っている人のもとへと向かう。
立っている人物は黒いロングの髪をポニーテールで結んだ女性であった。
服はゴシックパンクをイメージした服で、色は黒一色で纏められている。
そして一番目を引くのは彼女の顔であろう。
彼女の顔はとても整っており目も鼻もすらっとして美しかったが、紋章のような刺青が数多く彫られている。
梓を見るとその女性は口角を軽く上げ笑う。

「どうやら…無事に此処までたどり着いたようだな…『ヒューマンロード』よ」

彼女は男性の声にも聞こえる独特な声で梓に話しかけた。

「『ヒューマンロード』?私の事…?あなたは一体誰?」

その問いに東城が答える。

「この人は『ダークロード』、ホリィ・ヴァルハランド」
「ダークロード?」

ダークロードことホリィは鼻で笑う。

「そう、この東城や南、フィンスターが所属する組織、君達の言う『影の組織』、
 本当の名を『ナイト・オブ・ダークネス』、そこのリーダーだ」

梓は思わず鷹守宗孝に手をかける。

「私は戦いに来たのではない。手助けに来たのだ…それは周りを見れば一目瞭然であろう?」

梓は確かに、と思う。ここに倒れてる人達は全員自分の賞金を狙っていた事もわかっている。
そうでなければ北条院のビルの前で出待ちする道理がない。
だが梓はこの「ダークロード」を名乗るホリィの事が気にかかっていた。

「しかし…こんなクズの金の亡者共の上に立っても面白みがないな…」

ホリィはそういうと近くに倒れている男の顔面を踏みつける。
男は痛みを感じているのかいないのか分からないが、言葉にならないうめき声を上げるだけであった。

「…この人達に何をしたの?」
「今はそんなことを気にしている場合かね?北条院が待っているぞ?」
「それではダークロード、行ってきます!梓ちゃん、早く北条院を倒しに行こうよ!」

東城は先を急ぐが梓は首を振る。

「金の亡者…って言ったけど…あんたこそ金の亡者なんじゃない?
 他の賞金稼ぎを倒して私を北条院に受け渡そうって魂胆じゃないの?」

ホリィはほくそ笑む。

「金が目当てなら東城一人付けていけば良いだけの事。東城は組織の一員なのだからな。
 東城が70億を手にすればそれは組織に金が入るのと同じこと…違うかね?」

たしかに、と梓は思う。自分の鷹森組も一人が儲けるのではなく組織で儲けそこから給料がでるのだ。

「東城さん一人で頑張ってあたしを送ってくれたのに70億独り占めできないのは寂しいね」
「組織って言うのはそういうものなんだよね…」

東城は少し残念そうな顔をする。
そんな東城に梓は軽く苦笑いするが、真剣な顔に戻る。

「ならなぜ…この賞金稼ぎ達を倒してくれたの?」
「君には北条院を倒して欲しいからね、こんなザコ共に力を使って欲しくないのだよ」
「人にやらせて自分は高みの見物って事?」

梓のその言葉にホリィは呆れるように首を振る。

「無意味な質問だな…そういう君は自分の手で北条院を倒したいのだろ?
 私が一緒に戦ってやると言っても、私を信用出来ない事もあって結局一人で戦うだろう?
 私の行動に裏が無いか確かめているようだが…純粋に私は君を助けたいのだよ」

梓は言葉に詰まる。

「もし君を倒したいと思っていたらば東城にここまで無事に送迎させないぞ?」
「そうだよ梓ちゃん、僕らを信じて大丈夫!北条院を倒そうよ!」

梓は軽くため息をつく。今はむしろこの敵に感謝するべきかもしれない。

「このことに関してはお礼を言うよ…ありがとう…」

その言葉に軽く東城は微笑む。

「それじゃビルに潜入だね梓ちゃん!」
「ヒューマンロード」

ホリィは梓に声をかける。

「東城を連れて行きたまえ。力になるからな」

東城は照れるように頭をかく。
梓は頷き東城と共にビルの中へと向かう。

「あっと…そうだった…」

梓は途中で歩みを止る。
ホリィはそんな梓を見る。
梓を中心に気が放たれる。

「あんたの組織のせいで…あたしは親友の董子ちゃんを失うことになった…
 このオトシマエ…いつかつけてもらうから…!」
「楽しみにしているぞヒューマンロード」

梓は軽くホリィをにらみ付けると颯爽とビルの中へ入っていく。
東城はそんな梓に少しビビりながらも後を追って行く。

「フフン…ヒューマンロード…楽しませてくれそうだ…」

不適な笑みを浮かべるホリィだったが、不意に雨粒が頭に落ちる。

「…雨か」

空を見上げると雨粒の量が増しており、雲の中で雷が鳴り響き始めた。
ホリィは手を自分の前にさし伸ばし空を撫でる。
するとその空間が開き夜よりも暗い闇の空間が姿を現す。

「北条院の最期は…居心地の良い所で見させてもらうかな」

そう言いホリィはその空間の中に入っていく。
ホリィが入ると共に空間への入り口は消えてなくなっていた。



ビルに入る梓と東城。エントランスで周りを見渡す二人にビルのアナウンスが流れる。
その音声は北条院によるものであった。

『良くここまでたどり着いたな売女梓ぁ、そしてそこの青年、オメデトウ。70億は君のもんだ』

「北条院!」
「70億もらえるのは嬉しいけど、この後どうすればいいのかな?」

するとエントランスの奥にあるエレベーターが勝手に開いた。

『エレベーターに乗れば俺の所に来れる。待ってるぜ!』

そういうと北条院のアナウンスは音を立てて切れた。
梓はすぐにエレベーターに向かおうとするが東城がそれを制す。

「まって梓ちゃん…罠かもしれないよ…乗った瞬間に地下100階まで真っ逆さまとかあるかも…」
「う…でも北条院はたぶん上の階だよね…?階段で行こうか?」

そんな二人に声がかかる。

『罠ではないですよ…お二人さん…エレベーターにお乗りなさい…』

東城と梓は身構え周りを見渡す。

「今の女性の声は一体!?」
「僕も聞こえたよ…でも今の感じは…」

梓は周りを警戒する。

「なおさらエレベーターに乗れなくなっちゃったよ…」

梓がそういった瞬間、体が軽いことに気が付いた。
否、体が軽いのではなく、体が宙に浮いていたのだ。

「なっ!」
「うわ!」

宙に浮く二人に再び先ほどの声が聞こえる。

『すみませんが…乗っていただきますね』

その声の後に二人は投げられたかのようにエレベーターへと一直線飛んでいく。
ジェットコースター並みのスピードで広いエントランスを抜けていく二人。

「うわぁあああああああ!」
「あっ梓ちゃん!つかまって!」

東城は梓の手を掴み抱きしめる。勢いが凄いため梓は無意識のうちに東城に身を任せる。
勢い良くエレベーターの奥へぶつかり床に尻餅をつく東城。
二人を乗せた瞬間扉が閉まり、ボタンが自動で押され最上階へと向かっていく。

「東城さん大丈夫?どこか痛めてない?」

梓は東城の腕の中で東城の心配をする。

「いや、平気。無意識のうちに僕の小闇さんが守ってくれてるからね」

ピンピンしてるよとにこやかに笑う東城だったが突如痛がり出す。

「大丈夫?やっぱりどこか痛めたんじゃないの?」
「こっ小闇さんごめん!梓ちゃんを守ろうとして抱きしめただけでそんなつもりじゃないよぉ!」

その言葉を聞き梓は東城に抱かれてることを認識する。
思わず恥ずかしくなり東城の腕から抜け出し立ち上がり咳払いをする。
東城も軽く咳払いをし立ち上がり梓の横へと並ぶ。
エレベーターはもうすぐ最上階に着こうとしていた。
身構える梓。深呼吸をする東城。

「出来る限りサポートするよ…梓ちゃん」
「…信用するよ…東城さん…」

その言葉に顔を綻ばせる東城であった。
するとエレベーターが最上階に付いた事を知らせる音が鳴る。
真剣な面持ちの二人。
エレベーターが開いた先は意外な光景が広がっていた。

そこは周りが客席で埋め尽くされた競技場のようであった。
5千人以上は居るであろう観客から二人に壮大な声援が送られる。
爽快なBGMが流れライトによって二人が照らされている。
まさに熱気に包まれた試合会場といえる光景であった。
唖然とする二人であったが、真ん中に一人の男が立っていた。

「北条院…!」

梓は男をにらみ付けその会場内へと歩を進める。
東城は周りを見渡しながら梓の後を追う。
エレベーターから降りたとたん、勢い良くエレベーターの扉が閉まる。
つまりもう逃げられないということを梓と東城は身に感じた。
それでも構わない、北条院を倒せば言いだけの事だと梓は思っていた。
二人が向かってきたことを確認し北条院はマイクパフォーマンスを始める。

「レディース&ジェントルメン!ヒューマンハントのメインイベントに良く足を運んでくれた!」

会場がその言葉で大いに盛り上がる。

「俺、北条院明彦VS鷹森梓のこの試合は先ほどの電波ジャックと同様全世界に発信だぜ!」

北条院の言葉の後、観客席の上部にスクリーンが現れ、そこに梓と東城の映像が映し出される。

「凄いね、まるでプロレスかボクシングの生中継だ」

東城は周りを見渡しながら感心していた。
しかし梓は違った。北条院が生放送する真の狙いが分かっていたからだ。
北条院は梓との戦いを放送する事によって自身の力を誇示しようとしている…
というのもあるだろうが、梓が敗北した際の事も続けて放送する気なのだと。
つまりは敗北した梓を慰みものにし、その醜態を世に流そうという目論見なのだ。
梓はその事を理解していたため、今の状況に眉をしかめ汗を流していた。
東城はそれに気が付き真剣な表情で梓に言う。

「勝てるさ、梓ちゃんならあいつに」

その一言で梓は東城に微笑む。

「ありがと、東城さん」

東城も微笑む。だが北条院が茶々を入れる。

「おいおい!イチャついてないで早くこっちに来いよ!メインなんだからよぉ梓ぁ!
 後でいくらでも男とイチャつかせてやるからよぉ!まぁ5千Pの乱交だけどな!ハハハ!」

その言葉で真剣な顔になり北条院の方に歩を進める。
そして梓と東城は北条院のすぐ手前までやってきた。梓の電光一閃の射程距離である。
しかし放送されていることもありいきなり斬りかかる事ができない。
ある意味北条院の試合形式の戦闘に上手い具合に乗せられてしまっているのであった。
それでもゴングか何か試合開始の合図があればいつでも戦闘に入れる、そんな気を梓は発していた。
梓が集中していると不意に北条院はオーバーリアクションで頭を軽く叩く。

「おっと!忘れてたぜ!俺VS梓の前にマンハントの結果発表からしないとな!」

その言葉で梓はきょとんとする。

「俺の元まで梓を生きたまま運んだマンハントの勝者は…梓の横に居る男さ!拍手!」

観客から声援と共に東城に拍手が送られる。
東城はそういえばそっかと照れながら頬をかいていた。
そんな東城に北条院は手を差し伸べながら言う。

「良くやった!70億は君のものだ!名前はなんていうんだ?握手しようぜ!」

にこやかな表情を東城に浮かべる北条院。

「僕の名前は東城誠一、皆に賞賛されるのは嬉しいけど…握手はしたくないね」

その一言で北条院は表情を変える。

「なぜだ?」
「そもそも70億渡す気無いだろ?握手しようもんなら梓ちゃんの仲間みたいに黒焦げさ」

北条院は少し残念そうに手を軽く動かし引っ込める。
その様子に東城が更に口を開く。

「僕はお前を倒したいから梓ちゃんをここまで送ったわけで70億が目的じゃない。
 というかマンハントに参加してた連中は馬鹿だよな。テレビで信じ込んじゃってさ。
 あれが本当のお金なんて証拠どこにも無いじゃないか。ただの紙くずだと思うね僕は」

その言葉を聞き北条院は大きく笑う。

「70億が目的じゃなく俺を倒すために梓を送った?面白い奴だな!気に入ったぜ!
 俺が梓を倒した際梓をファックしていいぞ!」

梓は北条院をにらみつける。東城は赤面して苦笑い。

「梓ちゃんとそういう関係になるならちゃんと正式に恋愛関係になって順序を踏んで行きたいね僕は」

その言葉に思わず梓も赤面する。よくよく思うと梓の人生、今まで男っ気は0だった。
父親が父親なのでもし梓に彼氏が出来たら仕込み刀を振り回して泣き喚きそうであったし。
東城は自分で言っておきながら赤面し、なおかつ小闇に頭の中で暴れられているのか頭を押さえていた。

「ハハハ!ますます気に入った!真面目で賢くて面白い奴じゃないか!」

北条院は東城に拍手をする。だが北条院は不適な笑みを浮かべる。

「だが…甘かったな…70億…マジにあるんだぜ?」

その言葉で梓と東城は硬直。
北条院が指を鳴らすと梓と東城の後ろの床が音を立てて開いた。
そしてその開いた所からお札の山を載せた床がせり上がってきた。
梓と東城は唖然としてその大金を見つめる。

「手にとって確認させてやるよ。だが確認だけな?お前要らないって言ったんだからやらねぇぞ?」

東城は恐る恐るその山の一つの札束を手に取る。

「…本物だ…」

東城は次から次へと別の札束を手に取り確認する。思わず梓も一緒になって確認する。
思わず梓が口を開き叫ぶ。

「どういうことだ北条院!あんた私達同様ただの一介のヤクザでしょ!なんで70億なんて大金があるの!」

北条院は笑い出し青白い光と電流をまとう。

「それじゃあ答え合わせと行こうじゃないか。俺は自分の中で発電が出来る。
 その発電量は最大で4000KW。この電力はご家庭のソーラーパネルが一年で発電できる量。
 つまり俺は焼石カンパニーと組んでこの電力を世に売りさばいてるってわけさぁ」

笑みを浮かべながら電流を周りに発する北条院。まるでその様子は雷神のようであった。

「しかも自在に電流を操作可能。即死レベルの電流から拷問に最適な電流まで色々使えるのさ」

梓は唾を飲み込む。
能力である電気を使って金を儲けている北条院、逆に言えば売る余裕さえあるということ。
北条院の能力に梓は恐怖を感じていた。

「さて、分かったろ?70億が本物である理由がよ」

東城はうなずく。その様子に北条院はほくそ笑む。

「そこで東城よ、テメェが梓をやってくれねぇか?
 そうすりゃ70億マジにくれてやるし梓の処女もテメェにくれてやるさぁ」

梓は思わず冷や汗が噴出す。
金の魔力は怖い。金のため身を滅ぼす者達を梓は知っている。
一応彼女もヤクザ。借金漬けになった者達を見たことがあった。
その金の魔力によって、東城も虜になってしまうと感じた。
しかし東城は軽くため息をつく。

「まぁ、だからといって梓ちゃんに襲い掛かるわけには行かないね。
 むしろ北条院、あんたを倒せば好きに70億を出来るんじゃないかな?」
「ハハハ!まるで強盗だな、まぁ良いさぁ、俺を倒せるんなら倒してみな!」

そういうと北条院は両手を上げ観客を煽る。

「さて!それじゃあ試合開始だ!俺VS梓&東城と行こうじゃねぇか!」

観客達は歓声を上げ会場のボルテージが高まる。
再び身構える梓、そして東城。
そんな東城に北条院は言う。

「テメェが誰か知らねぇが…俺が勝ったら男娼としてハッテン場に送ってやるぜ」
「負けないさ、梓ちゃんも僕もね」

北条院は東城をにらみつける。
北条院は手で合図を送ると会場に試合開始のゴングの音が鳴り響く。
その場は観客の声援に包まれる。
ゴングの音と共に梓は北条院に斬りかかる。
しかし北条院は分かっていたのかその斬撃を最小限の動きでかわす。
そして梓の腕を掴む。梓は北条院に蹴りを入れ距離を離そうとする。
が、その蹴りも北条院は読んでおり梓の蹴った足をそのまま掴む。
梓の背中に冷や汗が吹き出る。
梓を助けようと東城が北条院に殴りかかるも、逆に北条院にカウンターの蹴りを入れられ後ろに倒れる。
北条院は梓に嘲笑を送る。

「つかまえた」

次の瞬間、北条院の体から電流が梓を襲う。
梓の体がビクンと跳ねる。観客から歓声が上がる。
梓は苦しそうな表情を浮かべ、北条院は梓を見て嬉しそうな表情を浮かべる。
北条院は梓を東城の方へ投げ飛ばす。

「どうだ?気持ちよかったろ梓ぁ、今のはSMでも使用される気持ち良い電流だぜ?感じたか?」

梓は北条院をにらみ付け再び北条院に飛び掛る。

「電光一閃!」

しかし言っている言葉とは裏腹に梓は別の構えを取る。
つまりフェイントである。電光一閃だと思い北条院がかわすだろうと踏んだ攻撃である。
電光一閃は縦に超スピードで斬り抜ける技。横によけられる可能性が高い。
だが逆に、よける事前提ならよける動作を北条院が見せたら横斬りを繰り出すまで。
一直線に北条院に向かう梓。敵が向かってきたら横に避けるか後ろに下がり距離を開けるだろう。
だが北条院はむしろ梓に飛び掛った。
思わず梓は目を見開く。

「俺がテメェの攻撃を避けると思ったか?」

梓が刀を抜くよりも早く、北条院はその腕を押さえ刀を振るえなくする。
が、梓の背後から、東城が飛び出し素早く北条院に殴りかかる。
梓の後ろからの攻撃なので梓に集中していれば気が付かないであろうこの奇襲。
しかし北条院は不適な笑みを浮かべ、掴んだ梓の腕を思いっきり引っ張った。
北条院は梓を盾にし東城の攻撃を防ぐ。東城の拳が梓の頭に命中する。

「いったぁーーーー!!!!」

思わず叫んでしまう梓。
申し訳なさそうにあたふたする東城。

「ごっごめん梓ちゃん」

そんな二人を見て北条院は舌打ち。

「茶番してる場合じゃないぜぇ?イくぜ?」

再び北条院から電流が流れる。梓は後ろに反り返り口から泡を吹き出す。

「梓ちゃん!」

東城は北条院に蹴りを繰り出す。脚の側面ではなく足の底で蹴る前蹴りである。
ゴム製の靴底なら、梓を弄んでいる北条院の今の電流なら防げる、そう考えたのだ。
だが北条院はその蹴りをかわし東城の足首を掴む。
掴まれたことによって東城にも電流が流れる。

「残念!絶縁体で攻撃とはなかなか良い線行ってるな!だが無駄だぜ!」

電流が流れる二人を北条院は笑い、二人を投げ飛ばす。
投げ飛ばされた二人はまだ感電しておりビクビク体を動かしていた。
その様子に北条院が笑う。

「ハッハッハ!おもしれぇ!なんかエロくね?男女二人が感電してビクビクしてやがるぜぇ!」

その言葉に観客席も笑う。
二人は感電しながらも互いに手を掴み立ち上がる。

「なんで…攻撃が読まれてるの!」

梓は思わず愚痴をこぼす。
その言葉に東城が冷静に答える。

「…頭の中を読まれてる…」

梓は目を見開き東城を見る。

「北条院の能力!?」
「違うね、頭を読む能力は別の人のだ…電波をジャックしたのもその人だと思う…
 たぶんさっき僕らをエレベーターに投げ入れたのもその人の能力だ…」

梓は眉をしかめる。

「あたしと東城君VS北条院の2対1かと思ったけど…2対2のフェアだったのね…」
「そういうことだね。まぁ任せて、僕がその人の相手をするから」
「え!?」

東城は軽く梓に微笑むとその場から走り出す。
その様子に北条院は舌打ちをする。
しかし打って変わってオーバーリアクションで東城に呆れるように言う。

「おやぁ?東城まさかの梓を置いて逃亡!?こりゃ見損なったぜ!」

観客からブーイングが飛ぶ。東城は観客席に飛び込み観客達を分け入って消えてしまう。
北条院はやれやれと呆れた様子であった。

「オトコに振られちまったなぁ梓!」

しかし梓は挑発に乗らず真剣な表情で今の事を分析していた。
よくよく考えると今のやり取りはおかしい。北条院はこちらの動きが分かっていた。
心を読んでいたのすれば東城と自分のやり取りも北条院に筒抜けだったはず。
一瞬舌打ちしたのはそのため。東城が仲間を倒しに行くということからだろう。
しかし分かっているはずなら東城を止めることも出来たはず。
東城を止めなかったのは仲間に絶対の自信があるからか、
もしくはその仲間を見つけることが東城には出来ないと踏んでか。
そんな梓はあることを思い出した。
自分達がエレベーターに吹っ飛ばされたときに聞こえた声。
その主は女性であった。もしかすると仲間は女性なのかもしれない。


「もしかして東城君を止めなかったのって…むしろ止めれなかった時にその女性に心配をかけちゃうから?
 自分が止めれない=かなり強いってことになるよね。あと上手く逃げ回れる敵って事になるし。
 だからそんな敵がまさに倒しに向かってるって不安をその人に与えないようにあえて攻撃しなかったの?」

北条院は目を見開く。

「俺があのガキを止めれなかったとでも言いたいのか?」
「うん、だったら何で攻撃しなかったの?」

北条院は少しピクついていたが鼻で笑い冷静さを取り戻す。

「なんでって簡単さぁ。そもそもただ殴るだけのガキに俺の仲間がどこにいるか分かる分けないさ」

北条院がそう言っているのと同時刻。
梓たちの居る会場よりも13階下の階。
広く開けた部屋に涅理が一人たたずんでいた。
涅理の前にはテレビやPC、携帯などの精密機械が置いてある。

『なんでって簡単さぁ。そもそもただ殴るだけのガキに俺の仲間がどこにいるか分かる分けないさ』

それらすべてから同時に北条院の映像が流れる。
涅理は軽く微笑む。
すると突如、部屋のドアが開けられる。

「見ーつけた!」

ドアを開けたのは東城である。
思わず目を見開き驚く涅理。

「いやー早いエレベーターだったよ!あんなにいるお客さんを最上階まで運べるんだもんね。早いわけだ!
 最上階から下に13階に降りるのもあっというまだったもん」

涅理は真顔になり静かに東城を見ている。

『どうして私だって分かりました?それに何故私がこの階に居ることがわかったのです?』

その声は東城の頭に直接響いていた。

「これよこれ、これで分かった。頭の中に侵入される事でね」
「なんですって…?」

涅理は直接口を開く。
東城は頭を軽く指で示す。

「頭の中身を読めるから口で言わなくても良いかも知れないけど…僕の頭んには先客が居てね。
 よく暴れるんだ…咲耶ちゃんを脱がせろーとか梓ちゃんに色目使うなーとか。
 よーするに頭に入られるのって僕には日常茶飯事。だからすぐに読まれてるってわかったよ。
 あとは新たな侵入者がどこから不法侵入してるかその元をたどるだけ。元は彼女が調べてくれたよ」

涅理はその言葉うなづく。

「たしかに…貴方の中には何かが居ると感じてましたが…そうですか…『影の勢力』ですか…
 何故ビルの下に『ダークロード』が居たのかと思ってましたが、貴方もでしたか。
 すっかり見落としてましたわ。こちらは梓さんのお相手と『ダークロード』が来た際の準備がありましたからね」

東城は軽く苦笑い。

「ようするに僕はアウトオブ眼中だったわけね。まぁそれが功をなしたわけだけど」

涅理も軽く微笑む。

「そんな私の眼鏡にかなわなかった貴方が私を倒せるのでしょうかね?」
「倒せないかもね…凄い能力者だもんキミ」

涅理がその言葉に軽く微笑むが、突如東城の雰囲気が変わる。

「倒すのが目的じゃない。心を読む隙を与えさせないだけさ」

涅理はにらみつける。

「それが…貴方に出来るのでしょうかね?」
「キミの能力は大体把握できた。ネットやテレビの電波全部ジャックしてるように見せかけてるけど…
 実はすべて上にフィルターをかけてるだけ。ネットとかテレビとかの根本のデータを覆ってるに過ぎない。
 一つ一つのページに手を加えてりゃそりゃ凄いけど元から全部ひっくるめて隠しちゃってるだけ。
 風呂敷の中身を見ようとしても表の風呂敷しか見てないって事だよね…僕の例え下手だけど…」

涅理の眉がぴくりと動く。東城は話を続ける。

「そのことに能力を使いながら人の心を読んだり物を動かすって凄いよね。あ、あと梓ちゃんの家を透視か」

東城は周りを見渡す。

「だからこそ、何も無い部屋でこうして集中してるんだもんね。集中乱れないように。
 それだけ集中するってことは逆に言えば凄い能力でも休憩は必要なんだよね。
 僕らが高速に乗ってからは僕らの映像じゃなくワゴン車がダラダラ走ってる旅番組になってたし。
 何事もなさそうだからその映像で妥協し休憩してたんでしょ。休憩中はそこまで凝って透視できないと感じたよ」

涅理は図星なのか少し悔しそうに、少し頬を染めている。

「休憩してたのが恥ずかしい?まぁそれは置いといて…つまり…」

次の瞬間、東城の体から小闇が飛び出し涅理へと攻撃を仕掛ける。
涅理は一瞬目を見開きその場から瞬間移動で後ろに飛ぶ。
涅理の頬に汗が伝う。涅理はお腹に手を当てる。

「「つまり…お腹の子供を庇いつつ戦いながらジャック、透視、読心…すべてこなせるかなってことだよ!」」

小闇と東城が同時にしゃべり涅理へと攻撃を開始する。



場面は変わり北条院と梓の方へと移る。
北条院がいまだ優勢。梓から一撃も貰うことなく戦闘を進めていた。
梓はいたずらに電流を流され少し疲労している。北条院は梓を見世物にしている感覚で戦っているのだ。
しかし突如北条院が周りを見渡しながら叫ぶ。

「おい!涅理!涅理!どうした!俺の声が聞こえるか!」

その様子を見て梓が笑う。

「ねり…?ねりさんね、あんたの仲間…どうやら東城君に見つかった見たいね!」

北条院はスクリーンを見る。そこにはしっかり自分と梓が映っている。
安堵の息を漏らす北条院。

「涅理は…無事か…」
「あんたが無事じゃなくなるけどね!」

北条院が涅理の心配をしている最中、すぐそばまで梓が来ていたのだ。

「電光一閃!」

超速で刀を抜き、電流を使う北条院への皮肉るように、雷光のように北条院を切り裂く。
が…北条院を斬った際に聞こえたのは肉を裂く音ではなかった。
斬った際に聞こえたのは金属音。刀が金属に当たり擦れる音であったのだ。
その斬った感触に梓は目を見開く。北条院はにやけ梓の腹部を蹴り上げる。
お腹を蹴られたため梓は思わず口から嘔吐してしまう。
観客からは罵声半分歓声半分が飛んでくる。

「惜しかったなぁ〜ゲロ梓ぁ…魔物だったら今の一撃でオシマイだったろうな!
 てか喜べよ、テメェのキタネェ汚物にも歓声を上げる変態が来てくれてるぜ?
 こりゃスカプレイも期待して良いんじゃねぇのか梓よぉ」

腹部を押さえながら梓は北条院を見る。

「あ…あんたは一体…」

北条院の体は真っ二つになっていないものの、体の中心に斬られた跡がついている。
つまり皮だけは梓の刀によって切り裂かれたということである。

「テメェ仲間がせっかく教えてくれたのに忘れたのか?俺には拳銃も刀も聞かないって事をよぉ」

梓は思い出す。篠崎が拷問されながらもその事を教えてくれてたことに。
そして篠崎が北条院の手に噛み付いた際に歯がすべて折れてしまってたことに。
北条院は自分の斬られた胸の皮に手を入れ梓に広げて見せる。
皮の下から現れたのは金属で出来た機械の体であった。様々な部品が噛み合って動いている。

「電気を使うってんで『サンダーロード』だと思い込んでいただろ?それが違うんだなぁー!
 俺は金属と機械の『ロード』である『メタリックロード』、鉱物王、機械王と言った所だな。
 電気を発電できるのはおまけみたいなもん。真の俺の能力はこの体なんだよぉ!
 実は俺は電気だけじゃなく俺の体のシステムも焼石の所から世界各地に売ってるって事さぁ。
 最高技術の結晶みたいなもんだからな!俺のこの体はよぉ!70億たまるわけよ!」

梓にはちんぷんかんぷんだった。北条院が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

「最近『ロード』って単語を良く耳にするけど…一体なんのことなの…?
 さっきは『ダークロード』に会って…私は『ヒューマンロード』って言われたけど…」

その言葉に北条院は眉をしかめる。舌打ちをすると共に口を開いた。

「…『ロード』を…自分の事を何もしらねぇクソカスロードの癖して候補だった渉を殺して…
 俺達『マザー』の組系列に喧嘩売ったのか…?何も知らずに…俺達を分からず…?
 ふざけんなよ…ふざけんな…ふざけるなぁあああああああ!」

北条院は逆上し手の平を梓に向ける。
梓は身の危険を感じその場から飛び避ける。
北条院の手の平から電撃が撃ちだされる。
その威力で床に大きな穴が開いた。
思わずぎょっとする梓、しかし北条院が手をこちらに向けている。
動かなきゃやられる!梓はそう感じ動き回る。
動き回る梓を追うように北条院は手から電撃を撃ちだしてくる。
その電撃は観客席にも飛んで行き観客をも吹き飛ばすほどであった。
梓は思わず目を背けるも、人が死んでいるという事実を噛み締める。
人が死んでいると言う事で気が弱くなったら負けると梓は考える。
本当は守らなければならない者達であるが、彼らは自分を狙ってきた者達だと自分に言い聞かせる。
しかし観客席から阿鼻叫喚の声が聞こえる。思わず涙が零れそうになる梓。
北条院もそれをわかって梓に言う。

「コラァ!牝餓鬼ィ!逃げると回りに被害が出るぞ!大人しく俺のプラズマ砲で死ねよっ!」
「死んで良いなら死んでもいいよ!でもあんたは私に色々したいんじゃないの!?」

攻撃をかわしながら北条院に言う梓。一瞬北条院の動きが止まる。

「ただ殺すだけじゃつまらねぇもんなぁ…忘れてたぜぇ…思わず熱くなっちまった…
 テメェは陵辱して人権もすべて剥ぎ取って男共の肥溜めにしてやるぜぇ…」

そう言い冷静さを取り戻す北条院であったが、梓がその隙を突き北条院の股間に一太刀入れる。
北条院は思わず苦痛の表情を浮かべる。
梓は少し嫌そうな表情を浮かべ鷹守宗孝の刃を袖で拭く。

「うぇ…機械なのに女の子をどうこうって事ばっかり言うからもしかしてぇーとおもったけど…
 まさか付いてたとは思わなかったよ…機械で出来てても痛いの?それともソコだけ生身?」

北条院は鬼気迫る表情で梓を見ていた。しかし表情が変わり冷静になる。

「こんの処女ビッチがぁ…いいだろう…プラズマ砲の威力を弱めてやる…体がぶっ飛ばない程度になぁ!」

そう言い再び北条院は電撃を発射し始め、梓は再び電撃を避け始める。
梓は少し安心する。これで被害が押さえられる。
殺すための電力ではなく自分を捕らえるための電力に北条院はしているのだと。
向こうが自分を殺す気が無くてもこちらは北条院を殺す気である。
これは戦闘においてかなりのハンデキャップとなる。
敵は殺さないように手加減しているがこっちは本気で殺しにいける。
ずるいかも知れないがそもそもの戦闘スペックの違いからしてハンデがあった。
北条院は斬撃が効かない。そこをどう対処するか、梓は頭の中で思考を凝らしていた。
考えながら動き回る梓に北条院はちょっとずつだが腹を立てていた。
攻撃してこないで隙を狙っている梓は言わば逃げ惑う小蝿のようであった。
北条院はそこで突如天井に向かって電撃を撃ちだす。
電撃に打ち抜かれ天井に穴が開き雨が入ってくると共に天井の破片が上から落ちてくる。
梓は落ちてくる天井の破片をかわす。だが、北条院の天井への電撃はまだ終わらない。
北条院の天井への電撃は天井の外周に向かって放たれている。
天井の外周に穴が開けられていくことにより、天井が音を立て始めた。
梓は思わず北条院に叫ぶ。

「天井を落とす気!?」

北条院は不適な笑みを浮かべる。
次の一撃を放った瞬間、穴から穴へと亀裂が走り天井が落ちてくる。
梓は鷹守宗孝を構え上から落ちてくる天井を細かく切り裂き事なきを得た。
不幸中の幸いか、観客席の上の天井は残っており観客達は無事であった。
梓はホッと安堵の息をつく。だがすぐに北条院の方を見る。
北条院は天井の下敷きにはなっていなかった。
雨雲の下、落ちてきた天井の上に立っている北条院。
北条院は天井を避けていなかったのだ。落ちてきた天井が北条院の硬さに負けた、といえるだろう。
それを彼の体が物語っている。彼の服や頭皮は落下する天井に剥ぎ取られていた。
そのためそこに立っているのは皮の下に隠されていた彼の素顔であり中身。
全身が貴金属で出来たまさにターミネーターのような機械人間であった。
彼の顔に入れてたピアスはすべて、彼の部品であったということも顔を見てわかる。
北条院は首を鳴らすように左右に曲げる。曲げると機械音が響く。

「テメェよりも先にすっぽんぽんになっちまったぜ、谷口の野郎に皮を作ってもらわねぇとな」
「全身機械…『メタリックロード』?だっけ?機械王とか名乗るだけの事はあるね…
 口とか目の下とかに入れてたピアスも顔の部品だったなんて…」
「こいつぁ安全装置だ。電気を溜めすぎないようここから放電してる。だから光るんだよ俺は」

梓はテレビで北条院が篠崎を手にかける時に光っていたことを思い出していた。
だが梓はそのことよりも天井が抜け落ちた空を見上げる。

「まさか天井を落とすとは思わなかったけど…殺す気の攻撃じゃないのこれ!」

北条院は機械で出来た瞳を梓に向け笑うような動作をとる。

「天井を落とすのはテメェを殺すためにやったわけじゃねぇよ。俺の策さ。
 てか落とす前に何度も穴を開けてやっただろ?勘の良いやつならその穴の下に居るもんだが…
 あえて落ちてくる天井を斬って安全を確保するとは思わなかったぜ、梓テメェ馬鹿だろ」

梓は思わず悔しそうな表情をする。だが北条院を鼻で笑う。

「でもその天井を落とす作戦は全くの無意味だったね。骨折り損のくたびれもうけって感じ。
 ここが最上階じゃなかったら上の階に置いてある物に流石の私もぺしゃんこにされてたろうけど」

その梓の言葉に北条院は首を横に振り舌を鳴らす。

「だから言ったろ?これは俺の策だってよぉ。テメェの今いる所見てみろ」

梓は眉をしかめ首を傾げる。今自分が居るのは先ほど落ちてきた天井の上。
天井が無くなったため空が上に広がっている。
その空は雨雲。北条院と梓に大量の雨を降らせている。
梓はあることに気が付き目を見開きその場から逃げようとする。
しかし時既に遅し、北条院からの電流が足元を伝わり梓を襲う。
先ほどよりも数倍強い電流であり、梓は白目を向き口から泡を吹き倒れる。

「濡れてるって事は電気を流しやすいって学校で習わなかったかアホ梓」

電流が流されたことで意識が飛び脊髄反射でビクビクと動いている梓。

「聞こえてねぇか…まぁ良いさ…楽しませてもらうぜ!」

北条院はそう言い梓に歩み寄る。すぐ近くまで来て軽く足で梓を蹴り意識があるか確認する。
梓は意識が無く白めを向いたままであった。北条院は舌打ちをする。

「俺はマグロが嫌いなんだよなぁ…オラ起きろクズ梓」

そう言い梓の髪の毛を掴み梓を無理やり引き起こす。
梓の両頬にビンタをし目を覚まさせる北条院。
ビンタといっても金属の手から張り出されるそれはビンタとは程遠いものであった。
梓の口から血が流れる。歯の何本かが折れてしまっていた。
意識を取り戻し梓はすぐに鷹守宗孝で北条院を攻撃する。
しかし相手も鷹守宗孝と同じ、いや、それ以上の金属であったためかすり傷一つ付いていない。

「そもそもテメェが俺に勝つなんてこと最初から無理だったんだよ」

そういうと北条院は髪の毛を掴んでいた手から電流を梓に流す。
電流は梓の髪の毛を伝わり彼女の脳に直接流れた。

「あ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ァア゙アァ゙ァッア゙ァァアアああアアアあアァッ!!」

その悲鳴に至極幸せそうな表情を浮かべる。
観客達もその梓の声に歓声を上げる。

「んん〜!実に良い声で鳴いてくれるじゃねぇか梓ぁ。
 気持ちいいだろ?脳みそに電流を流されるのはよぉ」

梓は血涙を流しぶるぶると震えながらも北条院を睨みつける。

「この…ポンコツ…ロボ…気持ち良い分けない…じゃない…」
「まだそんな口が聞けるのか、まだ俺の電撃が物足りなさそうだな」

そういうと北条院は梓の着ている巫女服の前を大きく開き梓の小さい胸を露にする。
梓は腕で胸を隠そうとするが北条院はすぐに髪の毛を離しその両手首を片手で掴み持ち上げる。
梓は歯を食いしばりながら顔を真っ赤にしている。観客達は大いに盛り上がっていた。

「お?着物の下は下着なしか!準備が良いな!犯されるの前提か!?」
「着物の下は…普通なにも…つけないのよ!この変態ロボ…!」
「そういうお前も見られて興奮してるんだろ…?って…おいおいちいせぇなぁ。ありがたみのねぇ胸だぜ」
「う…うるさい…!手を離…」

梓が言いかけた所で北条院は彼女の胸の頂点に指を当て電流を流す。

「ハギィッ!ア゙アァ゙ァッア゙ァァア」

口から血と共に涎をたらし後ろに反り返り激しく震える梓。

「良い反応だ。こりゃ弄りがいあるぜ…っとそういえば…」

突然周りを見渡す北条院。

「涅理!涅理!まだ戦ってるか!?こっちに答えることは出来なくても俺の声は聞こえてるだろ!?」

場面は変わり梓たちのいる所から下13階の涅理と東城いる所へと移る。

涅理と東城達の戦闘は続いていた。
しかし小闇の能力に涅理が少し押されて防戦一方と言ったところであった。
東城の言うようにジャックをしながらの戦闘はかなり精神的な疲労を生むようで涅理は上手く戦えていなかった。
小闇は影からどんどん化け物を量産し涅理へと差し向ける。
涅理はその一体一体を念動力によって消していく。しかし背後から大きな手が涅理の首を掴む。

「しま…った…」

その様子に小闇はにやけそれにあわせ東城もにやける。

「私の射程が既にあんたの背後まで行ってたのよぉ!これで私と東城さんの勝ちね!」

首をぎりぎりと締め付けられている涅理だったが、鼻で笑う。

「あらあら、この状況であの北条院があんたを助けに来るとでも言うのかしら?」
「彼は今…私としては…全く…面白くはない事を…お楽しみ中のようですよ…」

小闇と東城は同時に首を傾げる。

「それでは…見せてあげますよ…」

涅理は目を瞑る。
すると小闇と東城の脳裏に映像が浮かぶ。
それは今まさに、北条院に体に電流を流され弄ばれる梓であった。

「これは…」

小闇が軽く口を開くが、東城は目を見開いて驚いている。

「リアルタイムの映像よ…鷹森さん…彼に負けたようね…」

それを聞いて東城の体が震えだす。
小闇はその東城の様子に思わずあせる。

「な…何!?東城さんの体の主導権は今私にあるはずよ!何よこれ!」

涅理は軽く笑う。
映像にはしっかりと音声も乗っていた。

『OKOK、涅理、どうやらそっちの東城ってやつにも見せれてるようだな!』
『うぅ…もぉ…やめてぇ…』
『そうは言ってるが体は正直だよな?気持ち良くなって来たろ?』

梓の顔は涙でぐちょぐちょになっていた。
その表情をみて東城の表情はどんどん悲しみの表情へと変わっていく。

『見てろよ東城、この処女梓が始めて男に昇天させられる様子をよぉ!』

そういうと北条院は梓の袴の中に手を入れ電流を流す。

『あ゙ギャア゙ァア゙アァ゙ァッアぁあぁあぁあああぁイ゙いぃぃいぃ゙ぃいい゙』

梓は口からだらしなく舌を出しその電撃に身を任せてしまっていた。
その様子に東城は目から涙を流し叫ぶ。

「そんな…!あずさぁああっぁあぁあぁぁああぁあ!!」

叫んだことで何が起こったか、そもそも小闇が東城の体を借りてる際、その体の主導権は小闇である。
しかし今、東城の心からの叫びが小闇と東城のその関係を崩してしまった。
小闇はその叫びと共に力が抜けて動けなくなってしまったのであった。
その隙を涅理は見逃さず念動力によって東城を向こうの壁まで吹き飛ばした。
小闇が力を発揮できなかったため東城はモロに壁にぶつかり口から血を吐き倒れる。
涅理はその様子をみて緊張が解れたのか肩で息をする。

「危なかった…彼が鷹森さんをいたぶってなかったら…私は殺されていた…」

涅理は安堵の息をつき安らかな表情でお腹をさする。



場面は戻り北条院と梓のほうへ。

「イったか?イったのか梓?」

北条院は梓の顔を間近に見てその表情を楽しんでいた。
電流を体のありとあらゆる感帯に流され我を失いかけていた梓。
一瞬梓の脳裏にこの電流にすべてを任せて快感に浸りたいとも考えてしまう。
しかしその考えを消すものが彼女の頭に聞こえてくる。
それは東城の声であった。梓のために涙を流してまで叫んだ彼の声。
その声が聞こえた瞬間、息を一気に吸い込み血まみれの口から北条院に血の目潰しを食らわせる。

「うわっキタネェ!目が見えねぇぞ糞が!」

機械とは言えいきなり視界が悪くなったことにより思わず北条院は梓から手を放す。
手が放された瞬間、梓は持っていた鷹守宗孝を北条院の口の中へと突き入れた。
北条院の口の中から首に上のほうに突き抜ける鷹守宗孝。梓は地面へと倒れこみごろごろ転がってしまう。
いわば刀が顎骨を砕き首の骨をかすめ後ろに突き抜けているという人間なら即死の攻撃であった。
しかし北条院は機械であり、鷹守宗孝は単純にその機械と機械の隙間を縫って飛びぬけただけであった。
北条院は口の中を鷹守宗孝が貫通した状態で舌打ちをする。

「しゃべり辛いじゃねぇか…まぁ音声システムは別にあるから良いけど…やってくれるじゃねぇか?
 こんなクセェ刀を突き入れやがってよぉ淫乱梓よぉ、テメェの口にオトコを突っ込んでやろうか?」

梓は地面に倒れたままにやりと笑う。

「最初…天井に穴を開けたって言うのを聞いて…あたし別の事を想像してたの…
 それをやられたら私は即死だって思ったんだよ…」

北条院は首を傾げる。

「あんたがやってこなかったから…上手く行くか分からないけど…私がやっちゃうよ…」
「一体何を言ってるんだ?テメェの武器は俺の口に突き刺さってるのに何をするってんだ?」

電流を流しすぎたせいで頭がいかれたかと北条院は思っていた。

「あんたは電気を作って放出できるみたいだけど…溜めすぎると大変なんでしょ?
 その顔のパーツが安全装置ってさっき言ってたもんね…電気ってすごいよね…
 パソコンとかの精密機械って…電気ためすぎるとショートしたりするみたいだし…」

梓の言っていること、考えを北条院はわからなかった。
だが別の部屋に居た涅理が、ハッとし梓の頭を今やっと読み取った。
涅理はその考えに汗を噴出し焦り、梓の考えを伝達すれば良い所を念話で叫んでしまう。

  『貴方!逃げて!そこは!』

叫んだ瞬間、先ほどとは逆に涅理は不意をつかれ東城に当身をされ気絶してしまう。

「涅理!どうした!大丈夫か!畜生…あの東城め…」

北条院が涅理の心配をしていると一瞬空がまばゆく光る。
雨雲から北条院目掛けて耳をつんざく轟音と、閃光が落ちてきた。

それは落雷。

高い位置にある金属目掛けて落ちてくるそれは北条院に突き刺さった鷹守宗孝に落ちてきたのだ。
高い発電量を誇っていた北条院であった落雷の威力は6億V。
それは北条院の電気の許容量を大きく上回っていたことに加え北条院はいわば精密機械。
一般の家庭では雷の日に精密機械を操作するのは危険とされているほど精密機械は雷と相性が悪い。
北条院の体の中を走りめぐる精密部品や配線、そして核となる頭脳部分が雷の電圧によりショートさせられていた。
その落雷はまさに電気を使い他人を弄んだ北条院に対する雷神からの裁きの雷であった。

「あたしが鷹守宗孝を突き刺してから床に倒れこんでいたのは…側撃雷を受けないため。
 理科の時間の後であの桜の下で董子ちゃんに教えてもらったなぁ〜
 落雷の落ちる木の下から数メートル離れて姿勢を低くしないと周りにも落ちるよって…」

その梓の声は既に北条院には聞こえていなかった。
北条院の体のいたるところから黒いこげた煙が立ち込めていた。
今まで他人を黒焦げに感電死させてきた彼が、同じ電気によって寿命が尽きたのだった。
梓は息をつき起き上がり胸元を直すと鷹守宗孝を抜きとる。
鷹守宗孝を抜き取られると共に北条院の機械の体は崩れ落ちるのであった。

「雨で濡らして感電させようとした策が私の落雷の策につながっちゃったね。
 策士策に溺れるってことよね…オトシマエつけさせてもらったわ北条院…」

その様子に観客席は唖然としていた。
梓はきょろきょろと周りを見ると70億が天井に潰されず残っていた。
それを見て少し梓は悪い顔をする。

「うっふっふー!北条院に変な事されかかったし慰謝料として貰おうかしらん!」

そういった瞬間、客席から観客達全員ががその70億と梓に鬼気迫る顔で押し寄せる。

「北条院が死んだぞ!」「俺達が貰うぜ!」「皆で梓をリンチだぁ!」「梓は俺の嫁ぇ!」

北条院が殺されたことにより制御がはずれ観客達が襲い掛かる。
北条院との戦闘後の疲労といきなりの事で梓は反応が出来なかった。
梓は両腕両足をつかまれ身動きが取れなくされていた。

「いやっ…!いやぁ!!」

しかし次の瞬間、会場に銃声が響き渡る。
その銃声に観客達の動きが止まる。
銃声のほうを見て梓は思わず涙を流して喜ぶ。

「おとうさん!」

満時がしとみと部下を引き連れて立っていた。
銃は部下が威嚇のために放ったものであったが、部下の銃口はすべて観客達に向けられている。

「私の娘を返して貰おうか、無事に帰してくれれば君たちに危害は加えない」

観客達は躊躇していたが梓を掴んでいた一人が叫ぶ。

「こっちにはその娘の梓がいるんだぜ!大人しくするのはお前らのほうさ!」

その言葉に合わせてそうだそうだと声がいたるところで上がる。
さらには「人数はこっちが上だ!」「鷹森組をぶっ叩ける!」「姉も手に入れてやろうぜ!」
という声まで上がる始末。その声に思わず満時も唾を飲み込む。
北条院によるマンハントは人間の心を蝕んでいたということを改めて実感した。
娘を助けるためにここに居る全員を相手にしなければならない。
全員を相手にしている最中に最愛の次女が男の手に落ちてしまうという恐怖が満時を襲った。
だが次の瞬間、梓を掴んでいた男たちが吹っ飛ばされる。
吹っ飛ばされた男たちに代わりある男が梓を抱きかかえていた。
その男は

「東城!」

満時が思わず握りこぶしを握りながら叫ぶ。

「梓ちゃん、またせたね…頑張ったね」
「東城君…!」

梓は恥ずかしそうに、そして嬉しそうに顔を綻ばせる。
東城は微笑むと背中から小闇が出現し周りの男を蹴散らしながら満時の所まで梓を運ぶ。
満時を前にし小闇は少し睨みを利かせながら言う。

「今日の所は助けてやるわ。北条院を倒す手助けもしたんだからあんたらも私達を見逃しなさいよ!」
「ありがとう…東城さん…小闇さん…」

梓は東城に感謝しその腕から離れる。
そして満時の前に立ち微笑む梓。

「お父さん、それに皆、倒したよ!」

その言葉を聞いて満時は梓を抱きしめ涙を流す。

「遅くなってすまない…よくやった…そしてよく無事だった…!
さすがはわが娘…変な目にあってかわいそう!」

梓は少し恥ずかしそうに苦笑いしていた。
しかし周りの様子がおかしい。
いまだに観客達は70億と梓に執念を持っているようだった。
一触即発の事態であった。満時は仲間に逃げる合図を送るが、よくよく考えるとここは最上階。
逃げ切れるとは到底思えない自体である。梓もその事を理解していた。

「どうしよう…おとうさん…」
「ねぇ、見逃してくれるならこいつ等全員私が殺してやってもいいんだけど?」
「駄目に決まってるだろ魔物め…!その瞬間お前と私の娘に触ったその男を殺すぞ!」
「退魔の剣士半分親バカな親父半分ってところなのね」

小闇がそうふざけている間に観客達がじりじり近づいてきている。
満時は致し方ないと覚悟を決め武器を構える。

「殺しはするな!動きを止めるんだ!」

その一言で部下達は「応!」と答え武器を構える。梓もしとみも武器を構える。

「ちょっとまってくれよ」

不意にある男がタバコを吹かしながら現れる。
その男をみて満時と小闇が目を見開き同時に名前を呼ぶ。

「「焼石徹!」」

呼ばれて焼石は腕を組みご満悦な様子を浮かべる。

「やっぱヒーローは遅れて登場するもんだよなぁ〜うん!」

だが、次の瞬間指を鳴らし観客と鷹森組の間に高くそして熱く厚い炎の壁を作る。
観客達は思わずその炎の壁に恐怖しおののく。
炎の向こうから満時に対して焼石は言う。

「ここは俺に任せな」
「良いの?焼石さん!」

梓が炎の向こうに叫ぶ。

「北条院とはちょっとした関係があってね、俺が後始末させて貰うよ」
「そういえば北条院が言ってたね、でもありがとう!任せたわ!」

梓が感謝をこめて叫ぶ。満時も焼石に向かって叫ぶ。

「焼石!そこに居る奴らを殺したら私がお前を殺すぞ!良いな!」
「殺さないから早く逃げろよボケナス!何のための時間稼ぎだと思ってる!」

満時は少しムッとしたが梓が帰ろうと満時を引っ張るのでニコニコしてその場を後にする。
梓は満時と姉のしとみ、そして仲間達と帰りながら北条院と決着が付いたことを改めて感じた。
既に雨は上がっており、綺麗な月が夜空を照らしている。
ビルから出た彼らを襲おうと前に立ちはだかる者は誰も居なかった。
それにダークロードにやられた人々は楸さんの病院の救急車に乗せられ運ばれていた。
ビル内の観客達は狂気に染まっていたがビルの外は普通の世界に戻っていたことを実感した。

「これで決着ね…北条院…」

梓は軽くその言葉を天に向かって言うのであった。

場面はビルの最上階に居る焼石へと戻る。

「さて諸君、70億は諸君で分けて良い。北条院のバカなゲームに乗っちまった諸君に対する慰謝料だ。
 ざっと5千人ぐらいか?一人百四十万だ。それで万々歳だろ?」

しかし観客として集まった者たちは北条院による梓の陵辱を楽しみに来ていたクズが多かった。
口々に文句を言う観客達。梓を渡せという声も聞こえてくる。
焼石は全身から炎をだして観客達に言う。

「梓を諦められないなら仕方ない。梓のためといえばあの梓の親父さんも消し炭にするのを許してくれるかな?」

焼石が炎をまとったことにより梓の事を言うものは誰も居なくなった。
しかし今度は金の分け前を増やせという輩も現れ、会場内でちょっとした乱闘が起こる。
焼石はため息をつき炎を飛ばす。
飛ばした先は彼らが執着を寄せる金。70億が焼石の炎に包まれる。

「お前さん達を縛ってたもんは消えたぞ。さっさと家に帰れボケナス共」

炎に包まれたお金を見て観客達は愕然としその場を後にする。
会場に居る全員が最上階から居なくなったことを確認すると焼石は指を鳴らす。
燃え盛る炎が消え、その中から70億が姿を表す。

「あんな奴らにこの金を渡すよりは本当に困ってる人たちや今回の騒動で打撃を受けた企業へ配らなけりゃな…
 70億は良い事に使わせてもらうぜ北条院…元はこの金も俺とお前で稼いだもんだしな」

70億を確保した焼石は軽く息をつくとあるものに目を向ける。
それは崩れ落ちた北条院であった。焼石は北条院のそばにしゃがみこむ。

「ボケナス…梓に喧嘩を売るからだ…鷹森組が渉を殺したって情報に機械なのに踊らされて…」

焼石はそういうと上着からスキットルを取り出し酒を北条院の体にかける。

「機械なのに女と酒が好きだったもんな…はなむけさ…同じ『ロード』としてのな」

かけ終わると焼石は指を鳴らす。北条院の体が炎に包まれる。
高熱のためどんどん溶けていく北条院の体。

「これで良い…お前さんの体は『ロード』の中でも一番貴重さ…電気にレアメタルに最高技術…
 悪用されないように溶かすのがお前のためでもあり…彼女のためでもあるよな?」

焼石は後ろに居る女性を顔で示す。
涅理が溶けていく北条院を呆然と見ていた。

「涅理さん、分かってくれるよな…?」

涅理は静かにうなずいた。
焼石はこれで北条院に関することはすべて終わったと感じていた。
しかし、北条院が行った事はこれから後を引くのであった。
悪用されるのは北条院の体ではなく北条院のした事であったのだった。
北条院のした事はこの後、梓だけでなく焼石をも苦しめることであった。



続く

作:ドュラハン