あの日から二日経った。

私の体にはまだ少し傷が残っていたが、いずれは治るような浅いものであった。




しかし


私があずさに感じたあの殺意は どうやら 



私の体の奥底にまで喰いこんでいるようだ。

市に虎を放つ如し




第七話 蠢く者達


「やほ!董子ちゃん!」

今日もいつも通り梓が董子に声をかけた。

しかし董子はいつも通りの返事が出来なかった。

ただ梓に微笑み返すだけ。しかもその微笑みは微笑みと言うよりは苦笑いに近い。

梓もそれに気がついたのか、不思議そうな顔をする。

「どうしたの董子ちゃん?…あの時の傷…まだ痛むの?」

董子は無言で首を振る。

傷は梓の傷と比べれば軽いほうであったし、彼女自身工事現場で働いているため体力だけは人一倍だ。

暗男の様な化け物に襲われたとはいえ、この程度の傷は彼女にとって有ってないような物。

だが、彼女は梓に助けてもらった時に感じた殺意はまだぬぐい切れない。

彼女にはその理由がわからなかった。

だがその殺意の真意を突き止めようとも思わなかったのだ。

彼女はその理由を追求する事に恐怖を感じていた。

何かが壊れてしまうような、そんな恐怖に駆られていた。

解決策の一つとしては梓に直接言うという手もあるが、常識的に言うわけにもいかない。

『私はあんたに殺意を抱いてしまった。どうしてだろう?』

なんて親友に言われたら、普通の人はどうするだろう?

絶交して二度と話してはくれないだろう。

梓は彼女がこの学校に入ってから以来の親友。失うのが怖かった。 だから、自分の中にわだかまりを残しておくしか手が無かったのだ。


「大丈夫だよ董子ちゃん!」

いきなりの梓のセリフに彼女は思わずぎょっとした。

自分の中で拭えぬ殺意に気が付き、それに対して言っているのかとも思われた。

梓は彼女の耳に小声で言った。

「また変な化け物が出てきたら私が退治してあげるからね

なんたって、 私 は 退 魔 の 一 族 な ん だ か ら ね !


その一言を聞いた瞬間、董子の全身の毛が一気に逆立ち、体の底から熱く、禍禍しい殺意が、

董子の全てを飲み込んでしまうように溢れかえってきた。

思わず董子は体を縮こませ震えながらその殺意を抑える。

「董子ちゃん大丈夫!?」

梓が心配して彼女の肩に触れた。


私に触れんじゃねぇ!!


自分の身を心配してくれた相手なのに彼女の口から出たのはこの言葉だった。

梓は思わず身を引いた。表情はとても弱弱しく、胸の前で手を握りしめ震えていた。

その様子を見て彼女は我に帰る。

しかし謝罪の言葉が出てこなかった。

教室に重い空気が流れる。


待てぇい梓!董子は俺の獲物だァ!董子ぉお前の喧嘩の相手は梓ではなくこの俺だァー!


そんな重い空気を健太郎は空気をいつもの乗りで吹き飛ばした。

「ば…馬鹿!喧嘩なんてしてないわよ!ねぇ董子ちゃん!」

「そっ…そうだぞ健太郎!わっ…私はただ体が異様に震えてる時に梓に触られて驚いただけなんだからな!」

そう言い流れに乗ってごまかすことが出来た。

「なんだ、董子がまさかの梓に対して弱い者いじめという名のSMプレイをしようとしているのかと思って止めたんだがな。」

健太郎の挑発通り董子は健太郎に怒りの一撃を入れるのだった。


「董子ちゃん…本当に大丈夫?……ごめんね、いきなり触ったりして……」

梓が下を向いて落ち込んだ表情で謝った。

「あずさ、私からもごめんね…いきなり怒ったりして…」

彼女はなんとか謝る事が出来た。だが体の奥にはまだ殺気が少し残っているのだった。

「やっぱり傷のせいかしら…?」

「うーん…そうかもしれないわ…今日は早退するかな…送り迎えの車が待ってるし…」

だが窓の外を見ると、彼女をいつも送り迎えしている男の車はどこにも見当たらなかった。

「なんだ…?…学校終わるまで待っててくれるはずだが…」

「あれ?どうしたのかな?いつもなら橋本さんの車が止まってるのにねぇ」

その言葉を聞いて咲耶が近づいてきた。

「董子はんを送り迎えしてくれとる人って橋本さんっちゅうワケや。」

「まぁね、高そうな車と背広の…まぁ傷者の人だけど、悪い奴じゃないよ…

でもどうしたの有沢さん?なんか興味でもあるの?」

先ほど健太郎が馬鹿な事言ってる時も、殴られてる時も自分の席から呆れた顔で見ていた咲耶が、

橋本の事を聞いた瞬間に血相を変えて董子たちの方に来たのだ。

なにか理由があるように見えた。

「いや…そやかて健太郎はいっつも董子はんに迷惑かけとるんよ?

その董子はんを迎えに来とる人がヤーさん関係やったら…

健太郎が血祭りにあげられちゃうかも知れへんでしょ」

皆それを聞いて笑いだす。

確かに健太郎はいっつも董子に喧嘩を凄い売ってるからだ。

彼女が慕う橋本はしないだろうが、普通のヤクザなら健太郎は今頃海に浮いているだろう。

「橋本さんは普通のヤーさんと違うから安心していいぞ。

…でもどうして私が早退したい時に限って居ないのかしらねぇ」

「用事でも有るんじゃないの?組織ってこう縄張りのこととかいざこざ多いと思うからね

きっと忙しいのよ、その橋本さんは橋本さんで。」

梓は頷きながら言った。

「まぁそうか、しかたない、一人で帰るわ…あずさベンキョ頑張ってな」

そう言い董子は荷物を担ぎ梓達に背を向けた。

その背中を梓は見送ると同時に思いを馳せていた。



董子ちゃん…一体どうしちゃったのかしら…まさかあの暗男にやられた時に何か魔の力を入れられちゃったのかしら…

肩に触ってわかったけど…董子ちゃんは明らかに殺気を放っていた…くそお暗男と南さん!やってくれるわ!

今度あったら本当に落とし前つけてもらうわよ!


梓は思いを馳せ気合を入れていた。


董子が教室を出て行き、窓から彼女学校の校門へ向かっているのが見える。

その彼女を見た咲耶は教室を出て行こうとした。

「どうしたの有沢さん?」

梓がその咲耶に声をかける。

咲耶は一瞬沈黙したがにっこりと笑い振りむいた。

「先生に董子はんが早退したって言いに行くんよ。」

それを聞いて梓はそう言えばそうか!とリアクションをとるのであった。

咲耶は颯爽と職員室へと向かった。


職員室に入った咲耶は、担任の先生ではない、他の先生に電話を借りたいと申し出た。

その先生は咲耶に理由を聞かずに電話を貸した。

咲耶はどこかに電話をかけ始める。

二度目のコールが鳴った時、何者かが電話に出た。

「あ、有沢ですけど…えぇ…例の獅子土董子と橋本組の件ですが…どうやら情報通りのようです…えぇ

これで橋本組があの企業と繋がっている可能性も大になりました…はい…私は鷹森梓の監視の仕事が残っているので…

はい…だから私の管轄外ですので…はい…他の人へ…はい、よろしくお願いします。」

そう言い受話器を置くのだった。


 董子はちょうど校門を抜けた所だった。

校門を抜け道路を見渡す。

学校に面した車道には、駐車している車が一台もなかった。

いつもなら彼女を迎えに来ている橋本の車が止まっているのだが。

董子ははぁとため息をつき重い一歩を踏み出した。

「董子ちゃん」

不意に彼女は誰かに呼ばれた気がした。

彼女が見渡すと、すぐ近くの電柱の影から橋本が手招きしていた。

「橋本さん!なんでそんなところに隠れてるんですか!」

彼女がそう言うと橋本は指で静かにと合図した。

彼女は急ぎ足で橋本の所へ駆けて行った。

「いやね、最近どうも俺の組織の事を探ってる連中が居るみたいでさ、だから車は別の駐車場に移動しておいたのさ。」

橋本は周りに気を配りながら小声で言った。

「へぇ、橋本さんの所を探ってる奴らが居るなんて、本当にヤクザ物みたいだなぁ」

「いや、というかヤクザじゃん俺!」

そう言い橋本と彼女は人気のない道を歩き出した。


 車が止めてある駐車場に向かう最中、橋本が口を開いた。

「聞き忘れてたがなんで早退したんだ?早退した理由はやっぱり喧嘩の傷が痛むから?」

「けっ喧嘩の傷じゃないわよ!階段から落ちた傷って言っただろ!」

董子の一言で橋本は歩みを止めた。

そして董子の方を見て言った。

「嘘つくんじゃないよ董子ちゃん、その傷は階段で落ちた傷じゃないことぐらい誰だってわかる。

一昨日のあの時は聞いたらまずいと思って聞かなかったが…実際は何があった?」

董子の怪我は南陽子と暗男によるものだ。

つまり董子が親友である梓に殺意を抱いてしまった元凶でもある。

傷の事を話せば必然的に梓に対する殺意の事も話すことになってしまうだろう。

なので董子は誤魔化そうと橋本に話していた嘘を貫き通そうと思った。

しかし、橋本の目は鋭く、嘘を見通してしまうような、

さらには下手な嘘をつけば殺す、そんな凶暴性を密かに匂わせるような眼であった。

董子は何も言わずただただその目を見ているしかできなかった。

その董子の心中を察してか、橋本は鋭い目つきを止めた。

「…何があったか言いたくないか…」

董子は静かに頷く。

今の董子は暗男に服を破かれた時のように弱弱しかった。

そんな董子を橋本は彼女を胸に引き寄せ抱擁した。

董子は橋本の行動に思わずぎょっとしたが、橋本が優しく言った。

「言えない理由は、なにか悩み事が出来たからだな…その怪我をした時になにか他の問題も抱えたんだろう?

でも一人で悩む事はないぞ…俺を頼って良いんだ…親だと思ってなんでも相談しろ…」

その言葉に、董子も橋本を軽く抱き返し口を開いた。

「実は…」

董子が話そうとしたその時、彼女の口を橋本が左手で塞ぐ。


次の瞬間、橋本は右手で背広の中から拳銃を抜き出し暗がりの中へ発砲した。

人気のない暗がりの中を銃声が鳴り響く。

すると塀の影から男がうめき声を上げながら倒れこんだ。

その男の手から拳銃が落ちる。

董子は橋本に視線を戻す。

「大丈夫だ董子ちゃん、殺してはいないよ。少し足を撃っただけさ」

橋本はその姿を確認すると董子の口から手を離し、今度は携帯電話を取り出した。

電話で彼は自分の部下達に彼が撃ち倒れもがいている男の回収を命令した。

電話をし終わった橋本は董子に言った。

「もしかしたら彼は君をつけてきたってこともあり得るからね。話を聞くのは車に乗ってからだ。」


董子と橋本は駐車場に着き車に乗りこんだ。

そこで董子は話した。

転校してきた南陽子、彼女は暗男と言う影を操る人間ではないものだった事、

親友の梓が助けてくれた事、その梓が退魔の一族らしい事、

そしてその梓に何故か殺意が沸いてしまった事など、起こったことを全て話した。

その間橋本は董子の話を静かに聞いていた。

「…なるほど、助けてもらったのに殺意を抱いてしまった、と…」

橋本はタバコに火を付けた。

「う〜ん、それはあれかもな…嫉妬から来ている殺意なのかもしれん。友人の才能に嫉妬していると言う事だ。

たとえば友人の方が自分より勝っていたりするとな…自分の方が本当は上なのに!と思う事は良くある。」

「そうなのか…でもそう言う気持ちとは違うけどよ…」

董子は不安そうにうつむく。しかし橋本がにこやかにその背中を叩く。

「深く考えるなよ〜その梓って女の子が退魔の一族って言う一般人とは違う人だった、

その事に嫉妬してるんだよ董子ちゃんはさぁ〜。だって董子ちゃんの職業は肉体労働の土木工事!

きっと退魔っていう漫画のような役職に憧れちゃったんだよ!」

橋本の叩き方が強かったのか、董子は背中を抑えていた。

「いてててて…そうなのかもしれないなぁ…うーん、私って少し嫉妬深かったのかなぁ…」

「嫉妬したって言うのもあるだろうし、最近董子ちゃんは働き過ぎでストレスが溜まってたのも有るかも。

普通学生は勉強にアルバイトに恋愛とか、それくらいだけど、董子ちゃんはそれ以上にハードな、

勉強に生活を支える仕事に恋あ…まぁ、恋してるか知らないが、普通の学生よりハードだからな。

少し休んでみるのも良いかもよ。仕事場と学校には俺から連絡を入れておくよ。」

董子は少し考え、にこやかに顔を上げた。

「そうね!少し思いつめてたのかもしれないわ。ありがとね橋本さん!」

「はは、どういたしまして。さて、それじゃアパートまで送るよ。」

橋本の車は董子を乗せて彼女の家を目指した。


 董子のアパートに着き、董子は車から降りた。

降りて橋本の方を振り向き言った。

「橋本さん、ほんとありがとね、気が楽になったわ。」

「あぁ、またなんかあったら相談してくれよ。」

董子は微笑みながら車を後にした。

その後ろ姿を見届けてから橋本は車を出させた。

橋本は小声で言った。

「悪いなぁ董子…嘘つかせてもらったぜ…お前だけの問題じゃなくこりゃ俺達にも関わるヤベェ問題だぜ」

運転していた部下がルームミラー越しに橋本に尋ねた。

「兄貴、何処へ向かいます?」

橋本は新しいタバコに火を付け一呼吸してから口を開いた。



「妻の所へ」


その一言を聞いて運転していた部下が急ブレーキを踏んだ。

そして橋本の方を震えながら見て言った。

「正気ですかい兄貴…姉御の所に行くってのは…」

「先ほどの野郎の事もあるし…董子の事もある…妻の所に行くのが一番だろ?」

部下は唾を飲み込む。

「そっそうかもしれねぇっすけど…人間の俺にゃぁ…あそこは行きたくねェですわ…」

「大丈夫だ、お前は俺を送るだけで良い」

そう言い橋本は部下に車を走らせた。


 橋本を乗せた車は怪しい繁華街へと来ていた。 

橋本はその繁華街にある「BAR・フェアリーフリー」と言う酒場に入って行った。

この普通の客は寄りつかず、ヤクザやマフィアが集う酒場である。

ヤクザ者ばかりが集まるのにも理由が幾つかあり、その理由の一つがこの店のオーナーが橋本組だからだ。

つまり橋本はここの元締め、この店は彼の店と言う事だ。

橋本が店に入ると、客たちはぴたりと会話を止め、橋本から顔をそむけた。

客をもてなす女の子達が橋本の元に集まる。

「お帰りなさい組長!」「うんもぉ最近全然来てくれないんだもん!」

「ねぇねぇ今日は飲みに来たのぉ?それとも私たちがお望みぃ?」

彼女達は普通の女の子達と違っていた。眼帯をしていたり包帯を巻いたり、どの女の子も怪我をしていた。

更には車いすに乗っている女の子や、腕の無い女の子も居た。

これが普通の客が寄りつかないもう一つの理由だ。

橋本はその女の子達に微笑み返した。

「スマンね、俺も忙しかったからね。また今度ゆっくり皆と飲むよ。」

「あらあら、今日はどう言った御用なの?」

片腕の女の子が橋本の腕にくっつきながら聞いた。

「妻は居るか?」

「もちろん、メリッサのお姉様は社長室に居ますよ。」

そう言い女の子は店の奥を顎で指した。

「ありがとう。んじゃ後はお客様達の相手をしてあげてね皆」

「はーーーーい」

女の子達が嬉しそうに答える。

橋本は店の奥へと歩いて行った。

そして社長室と書かれた扉を開ける。


 そこには橋本が先ほど足を撃った男が、体中から血を流し震えながら這いつくばっている。

その周りをバットやらスコップ、鉄パイプなどを持った屈強な部下達が取り囲んでいる。

屈強な部下達は橋本を見ると頭を深く下げ、全員口をそろえて言った。

「お帰りなさい組長」

「あぁ………さて、俺の愛おしい妻は何処かな?」

その言葉を聞き部下達は部屋の中が良く見えるように壁際によった。

這いつくばる男の視線の先に、女性が一人、長いタバコをふかしている。

「ウフフフフッ、久しぶり渉、会いたかったわよ。」

「あぁ、久しぶりだなメリッサ。」

その女性は美しい顔をしていた。長いまつ毛に高い鼻、青いアイシャドウ。

だがその女性は可笑しな姿でたたずんでいる。

上半身は裸で、董子よりも豊かな胸を露わにしている。

だが驚くのはそのことだけでなく、彼女の両腕が肘のあたりから先が無いと言う所。

更には幾多にも体に残る何かの牙の跡と切創。

下半身には凄く大きく値打ちがありそうなな厚手の毛布を被せており、どうなっているか見えない。

その毛布の一番下から、狼のような犬が数匹顔をのぞかせている。

「あのね、今あなたと隠れ鬼で遊んでたこのお友達とおしゃべりしていたのよ」

そう言い彼女、メリッサは這いつくばる男に視線を落とす。

「渉、あなたがこのお友達とおしゃべりする?」

「いや、俺は聞いてるだけで良い。メリッサ、君が話してくれ。」

そう言い橋本渉はメリッサの後ろの椅子に腰かけた。

メリッサは渉の方を微笑むと、そのまま男の顔を見た。

男は震えながら顔を上げる。

「ねぇ、君はなんで私の夫の後をつけてたのかな?鬼ごっこでもしていたのかしら?」

「し…知らねぇ…よ……ただ歩いてたら…その男が…いきなり撃ってきたんだ…」

メリッサはそれを聞き寂しそうな顔をした。

「あららら〜そんな嘘ついちゃ駄目でしょ、両親が泣いちゃうわよぉ」

「へっ…関係ねぇ…だろ…親なんて…」

男のその言葉を聞きメリッサは目で部下に合図した。

部下の二人ほどがペンチを手に持ち、男の手を掴んだ。

「お…おい何をするんだ…?止めてくれ!」

男の言葉を無視し、部下二人は同時に男の両親指をそのペンチで潰した。

悲痛な叫び声が響く。だが店の方までは聞こえないだろう。

その様子をメリッサは微笑みながらみていた。

「ほらほらぁ〜言ったじゃないのよん、両親が血の涙を流しちゃったわよ?」

「わ…わがっだ!言う!言うがらもう止めてくれ!」

「最初から言ってくれれば良いのよ、で、どうしてなの?」

「はっ橋本組と焼石カンパニーとの癒着を…に…つっ…ついて調べようとぉ…」

橋本がピクリと反応する。

「へぇ〜なるほどね、うちの組と焼石さんが友達かどうか調べたかったのね!」

男は何度も頷いた。

メリッサは更に質問した。

「なんで?どうしてお友達かどうか調べたかったの?」

「やっ焼石カンパニーの評判を…落とすには…ヤクザとの癒着問題を公にするのが…一番だからだ…」

それを聞いてメリッサはムスッとして渉の方を見た。

「ねぇ聞いた?私達がヤクザってだけで評判落ちるそうよ?貴方ちゃーんと寄付の話とか公にしてる?」

「一応ユミセフから表彰されてるんだけどなぁ〜やっぱりこの稼業だと一般人からの聞こえが悪いんだろうな。」

「良い事ばっかりしてるのにねぇ〜」

その言葉を聞き男は叫んだ。

「何が良い事だぁ…!現に…俺にごっ拷問してぇ…!お前らマフィアと…かっ変わらないだろ!」

「だからなに?」

メリッサは男を鼻で笑い見下す。

「あんたもそっち系の……人間…でしょ?拳銃持って私の夫をつけるなんて、カタギさん達はしないわよ?」

そう言うとメリッサは何かに気が付き不敵な笑みを浮かべた。

「そうそう!そうよ!そこを聞かなきゃ駄目よねぇ!」

メリッサは少し前かがみになり言った。

「誰に調べろと言われたの?自分で新聞に売り出そうとかじゃない事はわかってるわよ?

拳銃を持っている時点であんたは一般的なカタギじゃないことぐらいわかってるんだからね!」

男は冷や汗をかいていた。しかし首を横に振る。

メリッサは今度は呆れた顔をし首を男のように横に振った。

「そんな嘘ついちゃ駄目よ、お子さんが悲しむわよ?」

男はその言葉にギョッとし、小指を潰されまいと部下に掴まれている両腕を振って抵抗する。

だが、その男の足の方に立っていた部下が、バットをゴルフグラブのようにスイングする。

そのバットは、ちょうど男の足と足の間をすり抜け、男の股間部をホームランした。

グチャっと生々しい音と共に先ほどとは比べ物にならない悲鳴が響き渡る。

思わず渉は耳を塞ぐ。

メリッサは可哀想な物を見る目をしながら残念そうに言った。

「ありゃぁ〜残念でしたぁ〜!お子さんってのは小指の事じゃなかったねぇ。まぁたぶん双子のうちの一人だけよ潰れたのは。

しゃべってくれないともう一人も潰れちゃって生物学的に子供が授かれなくなっちゃうわよ?」

ひぃいいぃいいい!わぁわああああわかったぁあああ!もう言う゛!もう全部言うがらだすけでぐれぇ!

男は顔をくしゃくしゃにして涙と鼻水を垂らしながら哀願した。

「ならさっさとお話して、ね?」

メリッサはニヤニヤしながら言った。

そのニヤつく顔は微笑みと言うよりは嘲笑に近い笑みであった。

四ツ和財団だぁあああ!四ツ和財団んん!俺は財団の諜報員なんだぁあああ!

ボスの四和誠一郎はな゛っなんとしても業界トップに立ちたいんだぁあ!焼石カンパニーの評判を下げたいのもそう言うことだぁあああ!

「なるほど…四ツ和財団か…焼石さんの所が最近トップに立ってるからねぇ…調べたくなるのもわかるわな」

渉が口を挟む。

「しかし俺達が焼石と癒着があるなんてどーしてそんな噂が流れたんだ?」

それを聞いて男がすぐさま答える。もう痛い目に会いたくないからだろう。

じ…しっ獅子土董子ぉ!あっあのっあの女の面倒をおおおおっお前が見てるからだぁあああ!

それを聞いて渉が席を立つ。

「一体どういう事だ。何で董子の事が出てくるんだ?」

渉が男の頭を踏みつけ靴の底でぐりぐりと執拗に踏みにじる。

その様子は董子を送り迎えしてあげている普段の渉からは想像できない様子だ。

ボっボスは董子も焼石カンパニーからの提供だとおもっ思ってるんだぁああああ!

「彼女は関係ないだろ彼女は!彼女はまだ…」

「渉、董子っていうその女の子は違うかもしれないけど、焼石さんの所のもう一つの顔がバれかかってるってことよこれは」

メリッサが代わりに言った。それを聞き渉は男の頭から足を離す。

「そう言う事になるのか…うーむ、これはいろいろとまずいな…」

「しかしながら貴方が面倒を見ている女の子にも監視が着いてるってことよね、誰が監視してるか聞こうか?」

男はすぐさま答えようとしたが渉が男の顔面を蹴り飛ばす。

「誰が話せって言った?それは言わなくて良いんだよ屑が…」

「あれれ?なんでなの渉、聞いておいて監視してる奴をこの男みたいにした方が…」

渉は首を強く振る。

「董子を監視する、それは仕事場か学校内で監視してる可能性がある。すなわち、董子の友達が実は…ってこともあり得るわけだ。

だが董子の友達は董子の友達だ。こんな目に会わせたくないね。」

メリッサはそれを聞いて微笑んだ。

「ウフフ、優しい人ねやっぱり貴方は。」

そして男の方へその微笑みを向けた。

「良く話してくれてありがとうね。もう聞く事はないわ。」

男はそれを聞き胸をなでおろした。

「けど、貴方を帰すわけにはいかないわ、ここで死んでもらうからね。」

それを聞き男は狂ったように叫び出した。

うぞだぁあぁあぁぁ!嘘だぁぁぁぁあ!全部っぜんぶ話したのにぃいぃいいいぃ!

「御免なさいね…でもね…」

そう言うとメリッサは舌舐めずりをし、色目を男に向けた。


私が食べてあげるわよ?ウフフ」


メリッサはその胸を揺らす。大きなその胸は男の本能をくすぐる様に弾むように揺れていた。

男も思わず叫ぶ事を止め見入ってしまう。

最近は渉も会いに来てくれなくて、私も相当溜まってるのよぉん、楽しませてね

ちょ、おま

渉が思わず焦って言葉を漏らす。

男は最期だからか、息を荒くしている。まるで盛りついた犬のようだ。

メリッサはその姿を淫靡な表情で眺めてから下半身に被せていた毛布を跳ねのけた。


 男は毛布が外されたメリッサを見て、今度は恐怖の感情が含まれた悲鳴を上げた。

「あらあら…さっきまでの盛りついた雄は何処へ行ったのかしら?」

メリッサはため息をついた。

が、次の瞬間、目を見開き獣のように口を開けて言った。

「お前は犬の餌だァ!」

次の瞬間、毛布の下から顔をのぞかせていた犬達が一斉に男に襲いかかる。

悲痛な叫びと共に犬達の肉を貪る音と骨を噛み砕く音が合わさりある種の音楽を奏でていた。



 「さぁて渉、私の所に久々に来たってことは何か話があるんじゃなくて?」

男への拷問が終わり、男を跡形もなく始末したメリッサは渉に問いかけた。


…組長会を開く


メリッサは咥えていたタバコを落とす。

タバコは犬の頭の上に落ち、犬がキャンキャンと熱がっている。

メリッサも思わず顔をしかめる。

「えぇ!?今回の問題は私達の組と焼石さんの問題でしょ?なんで組長会を開く必要が!?」

「鷹森と言う名を知っているか?」

メリッサは眉間にしわを寄せる。

「知ってるけど、貴方には無害じゃなくて?」

「まぁな、だが奴らが動き出したそうだ。」

メリッサはそれを聞いて歯茎が見えるぐらいに口の両端を持ち上げ微笑んだ。


そ れ は そ れ は 組 長 会 を 開 か な き ゃ な ら な い わ け よ ね ぇ !


そして高らかに笑い声を上げた。



 一方その頃、夜の月明かりの下、日本の伝統的な様式の屋敷の庭で稽古をする梓の姿が。

彼女はさらなる研磨のためにこうして稽古をしているのだ。

だが今回は、董子の様子をおかしくした元凶である、南陽子達との再戦に向けての特訓であった。

「学校から帰ってきての稽古か、結構結構、流石は私の娘だ。超可愛い!」

威厳のある男が、彼女の稽古姿を見て感心していた。

威厳ある割にはセリフの最後に余計なことを言ったりしているが。

その男は顔に傷があり、松葉杖を使って立っていた。

「お父さん、だって私が力不足だったから、親友が痛い目にあったんだよ?

だから今度はそうならないようにもっと強くならなきゃ!」

それを聞いて男は頷く。

「そうだ、退魔の任を姉から引き受けたからには、これからも精進するのが一番だ。

魔物から人々を救うのが私たちの仕事なのだからな。これ以上怪我しないように気をつけてねぇ…」

「はい!…でもぉ」

「でもぉ?」

梓はハーっと息をついた。

「学校に行くのにいっつも徒歩と電車は大変だよぉ!組の人に送ってもらったら駄目?」

「あぁ…可愛い娘のためにはしてあげたいんだけど…組は組で忙しいの…ゴメンね」

梓はそれを聞いて頬を膨らませて文句をぶつくさ言いながら稽古に戻った。

「もぅ…董子ちゃんを送り迎えしてくれる橋本組って所とえらい違いよねぇ〜うちの組は…」

その一言に男は反応した。

「ん?どうしたのオトン」

「梓…詳しく話してはくれないか?その橋本組について…」

男の表情が、ちゃんと威厳のある真剣な表情へと変わった。



さらにもう一方…

ここはとある財団の本社ビル。

会議室に息を切らしながら男が駆けこむ。

「ほっ報告します!橋本組の監視を任されていた男が橋本組につかまったとのことです!」

会議室に居た重役たちがざわつく。

「そ…そしてどうなったのかね…?」

その質問に会議室に駆けこんだ男は首を振った。

「連絡が無いので…もしかしたら…もう…」

会議室に居た重役たちが恐れおののく。

「まぁまぁ」

会議室の一番奥に居た男が口を開ける。

「監視員が殺されたと言う事で橋本組と焼石カンパニーの癒着が本当と言う事が明らかになったと言って過言ではない。

後はその決定的な証拠を見つけると言うだけ…引き続き私の学校であの女の監視を監視員に続けさせろ…良いな。」

男は頷き会議室を後にした。


3つの組織が、董子、梓、咲耶の運命に呼応するがごとく、蠢きだした。


続く


作:ドュラハン