市に虎を放つ如し

第十七話 獄炎に焼かれる虎




港から漏れる明りが頼りであった貨物船の上は一人の男の出現により昼間のように明るくなっていた。
炎を従えた背広姿のその男は緊迫した表情のまま、橋本組と鷹森組の間に割り立っていた。

「何故…我々の抗争を止める…?焼石カンパニーの若社長焼石徹よ…」

メリッサと董子との闘いで重傷を負った梓を抱えている満時が口を開く。
焼石は軽く満時の方に視線を移しながら答えた。

「お前さんと橋本の抗争に便乗して何か仕出かそうとしている連中がいるのさ。」

満時は目を見開き驚きの表情を隠せないでいた。

「するとなんだ!俺達と橋本は互いに抗争するように仕向けられていたとでも言うのか!?」
「否定はできねぇな。」

焼石は視線を梓に落とし、そして付けくわえるように言う。

「それに争うように仕向けられてたなら尚更、お前さんが梓を失えば更に連中に有利になる。
橋本組と鷹森組の戦力を落とさないようにするためにも、この馬鹿な争いは止めるべきなんだ。
まぁ、お前さんが董子を誘拐しなけりゃ抗争自体起こらなかったと思うがね。」

満時は眉を細め黙っていた。
焼石はそんな満時に気をかける事無く視線を別の方へと移す。

「さて、そう言うわけだ。メリッサ亡き後はお前が橋本組の切り札と言う事だ。」

その視線の先にはとなった獅子土董子が居た。

「聞いてたように董子、お前も鷹森組を相手にしている場合じゃない。橋本組の仲間として別の敵と戦う必要がある。」

董子は焼石を睨みつけ、虎のように唸り声を上げていた。

「あんたが誰だか知らないけど、あんたに止める筋合いはないわ…!そこの梓は私の…大切な…大切な橋本さんを殺したんだからね!」

董子のその目には涙が浮かべられている。
になった彼女であっても人間らしさを完全に失っている訳ではないようだ。
その事を感じ取った焼石は安堵の息をもらしながら言う。

「完璧な化け物になってなくて少し安心したぜ、話せる相手でよかったよ。
董子、お前さんも安心して良い。俺のダチの渉はしっかり生きてるからよ。」

その言葉を受けて董子はすぐに振り返る。
メリッサの死体の上に倒れていた渉が起き上がろうとしていた。
董子は渉が生きていた事に思わず感極まり肩を震わせていた。
焼石はそんな董子に微笑みながら言う。

「梓に感謝するんだな董子、梓はちゃんと峰打ちで渉を気絶させていたのさ。」
「あ…あずさ…」

董子は満時に抱かれている梓を見る。
服がボロボロになり、肌蹴た状態で気絶している梓。
そんな梓を見て董子は、大切な渉が殺されたと思い逆上し親友である梓を傷つけた自分が恥ずかしく思えてきた。
退魔の一族なんて関係ない、董子の気持ちを考えて行動してくれていた梓はやはり董子の親友である事に変わりはないのだ。

「あずさ…ごめん…ごめんな…」

董子は涙を流しながら梓に謝る。
するとになっていた彼女の体がどんどん縮み、元の人間の姿へと戻っていた。
戻った彼女はになった際に服が破けてしまった為に一糸まとわぬ姿になっていた。
だが董子は怒りに身を任せた自分の愚かさと友人を傷つけた事に泣いており、胸を隠す余裕がなかった。
そんな彼女に焼石が背広の上着を羽織らせる。

「ほら董子、渉の所に行ってやりな。アイツは妻を失ったんだ。お前さんが励ましてやらないでどうする?」

董子は頷き涙を拭う。
そして渉の所へと駆けて行った。
渉は起き上がっては居たものの、その場に座り込んでいた。
董子は渉の前にしゃがみこむ。
渉の眼は光を失い虚ろであった。

「渉さん!大丈夫?渉さん!」

董子が声をかけた瞬間、渉はとんでもない大声で叫び出した。
その様子に董子は目を丸くして茫然としていた。

うわぁああああああああ!メリッサぁああああああ!メリッサぁああああああ!わああああああ!

渉は梓に斬られたメリッサの死体を抱きかかえ泣き叫んでいた。
董子はハッとして渉の肩を掴み必死に声をかける。

「渉さん!落ち付いて!渉さん!渉!」

渉は董子の顔を見ずに手を払いのけ、泣き叫び続ける。
そんな渉の表情、行動を董子は今まで見た事がなかった。
自分の声も届かず、無残に自分の手を払いのけられ、叫び続ける渉を見て董子はこう考えてしまった。

私の渉さんが…壊れた と。

董子は今までの渉の事を走馬灯のように思い返していた。
親が居なかった董子の保護者代わりになってくれた渉、本当の親のように親身に相談に乗ってくれた渉、
ヤクザという世間一般からは蔑まれそうな職業であったがとても人間の出来た渉、
董子は今まで渉と一緒にいるだけで楽しい気持ちになれたのだ。
だがそれが今、渉が可笑しくなった事で全て崩れ去ったのであった。
再び董子の体から重々しい邪気が放たれその姿が巨大なへと変わっていく。

「あ!俺の背広!」

焼石は思わず先ほど羽織らせた背広が破けるのを見て声を上げてしまう。
董子は涙を流しながらゆっくり近づいて来る。

「許さない!私の…私の渉さんが壊れた!お前達のせいだ!鷹森ぃ!」

満時は梓を強く抱く。
董子はその梓を見て吠える。

「殺してやる…あずさを殺して…大切な人を失った気持ち…わからせてやる…!」

その一言を聞き、満時は梓を床に寝かせ上着をかける。
そして立ち上がり松葉杖から刀を抜き出す。

「大切な女性を失った気持ちは既に知っているぞ…それでもと言うなら俺が相手だ…!」

満時の表情は真剣そのものだった。
先ほどの様に言葉だけの強がりとは違い、今の満時は本気で董子から梓を守ろうと言う気迫に満ちていた。
董子もその事を満時の目の色、汗の臭いと肌で感じ嬉しそうに口角を持ち上げる。

「クヒヒヒヒヒヒ!殺し甲斐がありそうねぇ!」

目を血走らせ鋭い牙をむき出し涎を垂らしている董子はまさに獣であった。
満時は刀の先を下に向け後ろに構える。
が、その満時を焼石が彼の前に手を出し制する。

「此処は俺に任せな。お前さんには悪いが相手が悪すぎる。」
「止めないでくれ…俺は父親として梓を守らなければならん。」

焼石は目を伏せ静かに首を振る。

「駄目だ、お前は死ぬ気だ。その構えは最速の居合いの型ではあるが…今の董子の動体視力には勝てんよ」

満時が反論しようとした瞬間、彼の腹部に焼石の拳がめり込む。
腹部への衝撃により満時は膝をつきなり歯を食いしばる。

「俺の拳も見えていないようなら尚更だ。娘の梓の傍にいてやるのが一番だろ」

咳込みながら満時は梓に視線を落とす。
梓は気を失ったまま眠っている。
満時は梓の手を強く握った。

「俺の一張羅を破った事は置いておこう、だがな董子、お前にゃ今暴れられても困るんだ。」
「あんたの事なんか知ったこっちゃない…邪魔するなら…あんたも殺す!」
「そうか、しかたねぇな」

焼石は目を閉じ軽く深呼吸をすると董子の顔めがけて飛びこむ。
飛びこむと同時に焼石は空中で董子の顔面に回し蹴りを喰らわせた。
董子はその衝撃で先ほど自分が蹴り飛ばしたコンテナのように貨物船の上を水きりのように飛んでいく。
その飛んでいく方向を見て焼石はしまったと思う。
その方向には渉が居たのだ。
焼石はすぐに手を渉の方に向けたが運よく董子は渉の手前で弾み、彼の後ろに倒れる。

「一瞬渉に当たるんじゃないかとひやっとしたが、董子自体は案外あっけねぇな」

焼石がそう思った矢先、彼に猛スピードで巨大な何かが体当たりをした。
言わずもがな、その巨大な物はと化した董子であった。
今度は焼石が勢いよく飛んでいく。
さらに董子はその飛んでいる焼石に飛びかかり、貨物船の甲板にその大きな前足で叩きつけた。
貨物船の甲板が董子の体重と衝撃によりへこむ。

「案外あっけない?わかってないわねぇ、飛ばされた事は飛ばされたけど、
ちゃぁんと渉さんを避けるように床を叩いてバウンドしたのよぉ。
よーするにあんたの攻撃じゃ完全に私の動きを封じるなんてできないのよ!」

しかし焼石の反応は無かった。

「あらあら、案外あっけないのはあんただったようね?」

先ほどの戦闘で梓を押しつぶし損ねた時の感触と違い、今の董子の手の下には確かな肉の感触がしていた。
董子はいきなり茶々を入れてきた謎の男、焼石の息の根を止めれたと確信を得ていた。
しかし、段々彼女の手の平が高温を帯び始めていた。
その温度はである彼女でも耐えきれぬ温度となり、反射的に彼女は手を避け飛退いた。
飛退いた矢先、先ほどの彼女の手によってへこんでいた辺りから火山のように火柱が空へと噴き上げる。
その噴き上がる火柱の中から姿の変わった焼石が現れた。
その姿はまさに火の化身とも言える姿であった。
彼女は変貌した焼石の姿を見て思わずたじろぐ。
インフェリーノになった焼石は首を鳴らしながら彼女を見る。

「なかなかやるじゃねぇか、こりゃ本気で相手しないとヤバいな」

炎を両手に燈し焼石は董子に向かって思い切り踏み込んだ。
董子は焼石に迎撃する構えを見せ、向かってきた焼石に対し巨大な爪を振りかぶる。
が、次の瞬間董子の腕に酷い痛みと熱と共に衝撃が走る。
衝撃を受けた腕はいつの間にか火がつき燃え上がっていた。
焼石が手に燈した火炎を踏み込むと同時に董子に対して飛ばしていたのだ。
炎で怯んだ董子に対し焼石は両腕と両足のの炎をさらに強く燃え上がらせ攻撃を仕掛ける。
灼熱の炎をともした両腕両足を使っての体術のため殴ったり蹴るたびに董子の体に火が燃え移る。
董子は炎に怯える獣のように悲痛の叫びをあげた。
その叫び声は鼓膜をつんざく勢いの轟音で、思わずその場に居た満時等は耳を塞いでしまう。
しかしそれでも焼石の攻撃を止めることはできなかった。
炎の攻撃のラッシュを続ける焼石に対し董子は自暴自棄になり焼石を抱きかかえ締め上げる。
自分の体が燃やされつくす前に焼石を腕の力で絞め殺そうとしているのだ。
締めあげられ焼石の体の中から骨がきしむ音が聞こえてくる。
焼石は両腕ごと体を締め付けられているため攻撃が出来なかった。
蹴ろうにも抱きかかえられているため満足に蹴りが出せない。
焼石の表情が苦痛の表情に変わる。
歯を食いしばり耐えている口からは血が流れ出てきた。
董子も焼石が苦痛に耐えるのと同様、焼石の炎の熱さに耐えていた。
しかし突如、焼石の体から炎が消える。
董子は炎の熱さから解放された。
熱さから解放され一息つきたいであろう董子であったが、彼女は疑心暗鬼であった。
力を弱める事無く締め上げた状態で恐る恐る焼石の顔を見る。
焼石は気絶をしているのか虚ろな顔をしている。
董子は焼石を締め上げている腕からも、彼に反発する力がない事を感じ取った。
焼石に勝ったと確信した董子は勝利の雄叫びをあげる。
董子は体が焼け焦げており弱ってはいたが、今の董子を仕留めようと動く者は誰ひとりとしていなかった。
満時でさえ、目の前の強大で凶暴なには勝てないとわかっていた。
そんな周りの、董子から見れば意気地なし達をあざ笑うかの様な表情で見回した董子は再び焼石に視線を戻す。
焼石は力なく董子の腕の中で気絶している。
気絶しているのを確認した董子は人間の顔には似つかわしくない獣の様な牙をむき出しにして大口を開く。
そして焼石を頭から食べようと焼石の頭から肩のあたりまで口の中に入れてしまう。
刹那、董子の耳に声が聞こえた。

「この状態を待ってたぜボケナス」

次の瞬間、焼石の体からダイナマイトを爆発させたような爆風と衝撃が走る。
近くに居た満時はその衝撃で引き飛ばされてしまう。
しかし満時はしっかりと梓を庇うように抱きしめていた。
床の上に背中から落ちた満時は傷みに耐えながら董子達を見る。
すると先ほどまで炎が消えていた焼石であったが今度は青い炎に包まれていた。
満時は先ほどの爆風の事を瞬時に判断した。
ようするに焼石は気絶していたわけではなく、燃やし続けていた炎を一旦消し、その炎の力を全て溜めこんでいたのだ。
そして董子が無防備と言える動作である「物を食べる」その瞬間に溜めこんだ力を一気に使い全身に炎をつけたのだ。
一気に炎を点火したため空気が爆ぜ、衝撃派を産む大爆発へと変わったのであった。
そんな大爆発を受けて董子が平気で有るはずもなく、牙が全て粉砕し口の中が焼けただれていた。
顎が外れ口からだらしなく涎と血が流れ、目からは血涙を流していた。
董子の呼気は弱弱しく、空気が漏れているだけのようだった。
それでもなおかつ董子は倒れず、焼石を掴んだままであった。
この男を何としてでも殺さなければと言う執念に駆られているようだった。
そんな董子が焼石には酷く哀れに思えていた。
自分を殺そうと力を込めているようだが、もはやそんな力さえ感じられなかった。
焼石は体から再び炎を消し、董子を憐みの目で見つめながら優しい声で言った。

「もうよせ董子…そもそも俺とお前は戦う必要なんてなかったんだ…俺はお前を殺すつもりはねぇ…
こうでもしないとお前を止められなかっただけだ…だからもうよしてくれ…!」

焼石の言葉を聞いても董子は首を振り目を鋭く焼石を睨みつけていた。
そんな董子は背中の下の辺りに何か感触を感じた。
焼石の炎の熱さや痛みと違い、暖かく、優しい感触で、その感触は誰かに抱きしめられた時の感触に似ていた。
自分が大きい事を考えると…董子はすぐに後ろを見た。
そこには、渉が涙を流しながらくっついていた。
先ほどの焼石の爆発の衝撃で渉は我に返ったのだろう。

「董子…!もう…止めるんだ…!俺はそれ以上お前が傷つくのを見たくない…!それに俺のために戦ってたんだろう…?
それならもう…!俺は大丈夫だから…!お願いだ…いつもの董子に戻ってくれ…!」

董子の険しかった顔が一気にゆるみ、震えながら涙を流した。
だった董子はだんだん縮み、人間の姿に戻った。
最初はのお尻にくっついていた渉も人間に戻った董子を力強く優しく抱きしめる。
渉も元に戻ったとわかった董子はとたんに体の力が抜け、苦痛に耐え続けた意識も抜け崩れ落ちてしまう。
そんな董子を渉は倒れないように抱きしめていた。

「董子…すまなかった…巻き込んで…」

渉は自分の腕の中で気絶している董子に深深と謝罪した。
董子の表情は、顔がめちゃめちゃになってしまっているが幼子のように安心し寝ているような表情であった。
渉はゆっくり董子を床に横たわらせ、来ていた上着を上からかけてやった。
そして焼石の方にも頭を下げた。

「焼石も悪かったな…」
「いやいや、全然平気だ…と言えば嘘になるが、相当の強さだったぜ董子は…下手したら喰われてたぜ」
「しかしありがとう焼石、それでも董子を殺さないでくれて…メリッサは死んでしまったが…董子は娘みたいなもんだからな…」

それを聞いて焼石は笑みを漏らす。
そして唯一残ったズボンからタバコを取り出し火をつけ吹かす。
(どんな時でも絶対に男のズボンは脱げないのだ)
「もちろん、董子の事はお前から聞いてたからな。それに戦ってわかった。董子は『ロード』だ…!殺すわけにはいかねぇな。」

その言葉を聞いた渉は少し寂しそうな表情を浮かべていた。
落ち込んでる渉に焼石は付け足す。

「実はもう一人…見つけたんだ。」
「何!?」

渉の表情が一変する。
焼石は満時の方を向き、その満時の抱える梓へと視線を落とした。

「確信はまだねぇが微かに感じる…梓どうやら『ロード』のようだぜ。」

焼石の言葉にいち早く反応したのは、言わずもがな梓の父である満時であった。

「梓が何だと言うんだ!?」
「詳しくは言えねぇが、董子や梓はこいつや俺が集めてる連中の一人だったのさ。」
「集めてる…?橋本組とお前たちの目的は一体何なんだ…?」
「そのうちわかるさ。」

満時は納得できない表情を浮かべていたが、渉も同じような表情を浮かべていた。
しかし渉はすぐに悟ったような表情を浮かべた。
その様子に気がついた焼石が問う。

「どうした渉?」
「梓もだとしたら…俺はメリッサの仇をとれんなと思ってな…『ロード』の数を減らすわけにはいかんからね。」

焼石はそうだなと軽く頷いた。
そして見るも無残な姿になったメリッサを見つめた。

「どこかのボケナスに横槍さえ入れられなければ…メリッサが勝っていた勝負だったかもしれんが…
まさかの展開で梓が生き残った…これも『ロード』の血と言う事なのかな…?」

そう言いタバコの煙を空に吹く。
空を見るともう夜が明けそうで、日の光が海の向こうから漏れて明るくなってきていた。


「とりあえず渉よ、引き上げようぜ。董子も病院に連れてかないといけないしな。」
「あぁ…」
「抗争は此処で終いって事をお前の口から満時に言ってやれ。」

実際この抗争は鷹森組が董子をさらわなければ起こらなかった事かもしれないが、メリッサを狙撃し董子の覚醒を狙った者が居る。
そう考えるとこの抗争も「メリッサが死に董子が覚醒する」と最初から決められていた出来レースである。
その事を踏まえたうえで、そして自分達が見つけた『ロード』を死なせないためにも、此処はこの抗争を止めるべきである。
焼石はそう考え渉に「渉の口から」と言う事を伝えたのだ。
当の渉もその事を理解していた。
渉は頷き、梓を抱きしめ座っている満時に膝をついて言う。

「あんたの奥さんの仇である俺の妻は死んだ…それでこの抗争は終いって言う事で手打ちって事でどうか…」

そして深々と床に額がつくぐらい頭を垂れた。
満時は黙ったままであった。
そんな満時に渉はヤクザらしい事を言った。

「もし駄目だと言うなら俺の指を詰める。それでも駄目か。」

満時は首を振った。

「いや、今黙っていたのはお前のその申し出を否定するものではない。指を詰める必要はない。
俺たちはヤクザの前に退魔の一族だ。あんたや組員は殆どが人間のようだ。なら戦う必要もない。
仇である…メリッサは私の可愛い娘が討ち取った…お前の組は組長の妻と言う大きい代償を払った。それだけで十分だ。」

渉は安堵の息を漏らし頭を上げる。
が、今度は先ほど横に寝かしてやった董子を抱え満時に聞く。

「董子については」
「董子ちゃんは梓の友達だ。今は落ち着いたようだし昔から人間と変わらずに過ごしていたのだろう?
それなら今回は、言い方が悪いが見逃しておこう。董子が暴れた際には容赦はせんぞ。」

渉は少し涙ぐみながら再びお辞儀をした。
そして顔をあげて部下に言う。

「帰るぞお前ら!負傷者には手を貸してやれ!それと手の空いてる奴は俺の妻メリッサの遺体を丁重に連れて帰ってくれ!」

その言葉に橋本組員は「おう!」と声を上げる。
同じく焼石も渉の言葉に「おう!」と声を上げ微笑み渉に肩を回した。
渉は心の中で抗争が終わった事を喜んでいた。

しかし、対する鷹森組の満時は違った。



確かにこの抗争はこれで決着で良いだろう…だがな渉よ…悪いが俺たちは退魔の一族!
此処には来ていないが、お前の組には董子ちゃんの他にも魔物がいるのだろう!?
そもそも、何故メリッサがお前の所に居たのか疑問ではあったが、今日その理由がわかったぞ!
メリッサは、焼石カンパニーの社長、お前と一緒に居る焼石に紹介されたんだな!?
焼石カンパニーは機械生産の他に人材派遣をしていると言う話を聞いた…
つまり人材派遣とは魔物の紹介なのだ!
その事が焼石!お前が魔物だと言う事を知った事でようやく理解することが出来たぞ!
渉が組の強化にメリッサを妻にしたという事は前から知っていた。
しかし組の強化にメリッサだけを入れると言う事は考えづらい。
だから…いや、絶対にメリッサと董子ちゃんの他に居るはず!
その者達を討伐するまで俺たちはお前の組織と戦い続けるだろう!
そして焼石!お前の会社とも戦ってやるぞ!何故なら我々は退魔の一族なのだから!



満時は新たなる決意を梓の肩を強く抱きながら胸に強く持つのであった。
その決意がこの先さらに梓を険しい道に連れ込む事も知らずに…

続く


作:ドュラハン