あたしは重い足取りで駅から学校へ向かっていた。
あの日以来退魔の仕事はうちの組の人に任せっきり。
お父さんもあたしの気持ちをわかってくれてか、少しの間は休んで良いよと言ってくれた。
でも、それでもやっぱり、あたしは親友の董子ちゃんを失った事からまだ立ち直れていない。
親しい人が死んだ人って、この世にその人が居ないのにいつかひょっこり現れるのを期待してるとか…。
健太郎がそう言う心情になってるみたいだけど、あたしの心情もまさにそんな状態だった。
もう一度董子ちゃんに会いたい、会って話をしたい、一緒に笑い合いたい…。
でも、そんな願いもまた夢の夢…だって、董子ちゃんは死んだのだし、死んだ理由が…

「おーい!あずさぁ!」

物思いにふけっているあたしの背後から、聞きなれた声が聞こえた。
あたしはその声で思わず目を見開き硬直した。
だって…この声は…

「と…董子ちゃん?」

まぎれもなく親友の董子ちゃんの声であった。
あたしはその驚愕の出来事に動けなくなっていた。
振り向くことさえできない。
すると董子ちゃんは私の前に回り込んできた。

「どうしたのさあずさ!そんな変な顔して?なんか変なもん食った?」

あたしは震えながら首を横に振った。
それと同時に涙が出てきた。
健太郎が言ってたように生きててくれたんだと思うと涙が止まらない。

「董子ちゃん…!やっぱり生きてたんだね…!」

あたしのその一言を聞くと董子ちゃんは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「あははは!忘れてた!




私はあずさに殺されたんだよね!?

気がつくとあたしの手は血まみれで、体全体に董子ちゃんの返り血が付いている。
するとみるみる董子ちゃんの顔が崩れ始め地面に肉が滴り落ち始めた。
筋肉質な彼女の体も腹部から裂けながら内臓があふれ出る。
あたしはその光景を震えながら見ているしかなかった。
そんなあたしを董子ちゃんは崩れた顔で嘲笑していた。

そうよあずさ、親友のあんたに殺されたのよ私は!
い…いやぁああああああああああああ!!

そこであたしは布団から跳ね起きた。
息は荒く体は汗だくで、目からは涙が流れていた。

「ハァ…夢かぁ…」

あたしは胸をなでおろすと同時に、董子ちゃんが死んだ現実を実感する。
あたしの手には、董子ちゃんのヘアバンドが握られているからだ。

「夢だからホラーチックに出てきたけど…やっぱり董子ちゃんは居ないんだよね…」

あたしはまた悲しくなり、董子ちゃんのヘアバンドを胸の前で強く握りしめ泣いた。

市に虎を放つ如し

第二十三話 影による決別




 董子ちゃんが死んでから数日が経った。
クラスは既に明るさを取り戻していたけど、あたしを含めて健太郎と咲耶は未だに落ち込んでいる。
それもそうだろう、董子ちゃんを入れたあたし達四人は桜の下で友情を誓いあった仲だもん。
いつものように三人一緒に談笑してるけど、その談笑がぎこちない。
前まで董子ちゃんを含めて4人で生活してたから、ここに董子ちゃんが居ないことに凄く違和感を感じる。
それにこのクラスの名物だった董子ちゃんと健太郎の喧嘩ももう二度と見る事ができない。
健太郎は精いっぱい笑顔を作っているが、見るからに無理してる笑顔だ。
董子ちゃんとよく喧嘩してたのも、健太郎が人一倍董子ちゃんを慕ってたからだったし…
健太郎が董子ちゃんの話題をちょっとした時に出すけど、その時の表情が弱弱しくて直視できないよ…。
どれだけ健太郎が董子ちゃんが死んだ事にショックを受けているのか手に取るようにわかった。
友達が死ぬと…こんなにも辛い物だと言う事を改めて実感した。
それに加えて…董子ちゃんの死因が…あたしだから…胸が…苦しいよ…

そんな梓と健太郎、そして咲耶の三人がぎこちない談笑をしていると先生が教室へやってきた。

「おーい、皆席につけー!」

いつものように先生が皆を席に座らせ授業が始まった。
全員が席についたのを見計らうと先生は手を叩き生徒達の注目を集めた。

「皆、うちの定時制クラスにはもう一人仲間がいる事を忘れてないか?」

その一言に一瞬クラスがざわつく。
梓や健太郎、咲耶にとって仲間と言えば董子しか思い浮かばなかった。
だが彼女はもうこの世にはいないという事を彼女達は一応理解している。
しかし、空気の読めないクラスメイトが冗談半分に言う。

「獅子土董子ですかー?」

その一言を聞いて健太郎は机をけり倒し立ち上がる。

誰だ今董子の名前出した奴!!

周りが一気に静かになった。
健太郎は拳を握りしめ周りを睨みまわす。
咲耶は健太郎が怒るのも無理ないし不謹慎な奴が居ると思ったが、健太郎に何も言えなかった。
彼女には健太郎の董子への気持ちに対して少し嫉妬の気持ちを少し抱いていたからだ。
逆に梓は董子を殺した当事者であるため、健太郎に声をかけることが出来なかった。

「健太郎、気持ちはわかるが座りなさい…」

先生が健太郎に声をかけ落ち着かせる。
健太郎は拳を握りしめたまま震えている。
梓はそんな健太郎の目に涙がたまっているのに気がつき居た堪れない気持ちになった。
梓は思わず視線をそらし、ポケットの中の董子の髪留めを握り締めた。
そして出来ることなら、健太郎の悲しみを掬い取ってあげたい、そう強く思った。
たとえ自分が董子を殺した当事者で会ったとしても、彼を支えたいと考えた。
そう思い顔をあげ健太郎に声をかけようと思った矢先に、ある視線に気がついた。
その視線の主は咲耶からのものであった。
咲耶の表情はまるで梓の考えを見通しており、それを阻止しようとしているようなそういう視線だった。
咲耶は梓が自分の視線に気がついたのを察して梓に向って首を振った。
梓は誤魔化すように「何のこと?」とジェスチャーをする。
すると咲耶が席を立つ。

「松沢君…座ろう…立っててもどうにもならへんよ…それに…ウチがおるやないか…」

瞬間、梓の背中を冷や汗が伝う。
梓は励ます意味でも健太郎に咲耶が言った言葉、まさにそのものをかける気でいた。
確かに咲耶は関西弁だが、もし咲耶が標準語を話していたら、たぶん同じ事を言っていただろう。
まさか…あたしの考えていたことがわかったの?とも梓は思ったが、よくよく考えれば納得した。
咲耶と健太郎は一緒に登校もしてきてるのだ、いわば恋人同士が一緒に登校しているようなもの。
健太郎は董子の事が好きだったのだろうと思うが咲耶は健太郎のことが好きなのだ。
梓はその事に気がつき思わずニヤリとするが、そうだとすれば自分の役目じゃなかったなと思う。
咲耶に言われ健太郎は涙を拭いつつ席に着いた。
梓は咲耶に「ゴメンね」とジェスチャーを送る。
咲耶は咲耶で思わず焦って「いやいやいや!こっちこそ堪忍な!」と送り返した。
その様子を見て梓は思わず微笑む。
が、突如廊下から壁を殴りつけるような音が響く。

いつまで生徒を廊下に立たせておくんだよ!!

教室に居る先生に向って廊下から男性の声が響く。
梓はその声に聞き覚えがあったが、首を傾げてしまう。
そして声をかけられた先生のほうを見ると

「確かに生徒を廊下に待たせていたが…」

先生は廊下のほうへと駆け足で行き、廊下に待たせてる生徒に話しかけた。

「今の声…君じゃないよね?」
「……いいえ…………違います………」

先生の言葉に答えたのは先ほどの男性の声とは逆に女性の声であった。
その声を聞いた瞬間、梓に緊張の糸が走る。
先生はその生徒を連れて教室へと戻ってくる。

「皆、うちのクラスのもう一人の仲間だ!忘れてないよな?」

先生の横に赤い洋服を身にまとった生徒が。
黒い前髪が目にかかる長さで、その黒髪に引けをとらない黒いクマ。

「南…陽子…!」

梓は身構えながら思わず口から彼女の名前を言う。
先生が微笑む。

「そうだ!鷹森はしっかり覚えてたな!南陽子さんだ!転入初日に交通事故にあって入院されていたが、
このたびめでたく退院されてな。こうして皆とまた学業に励むことになった!」

そう言い先生は彼女に拍手を送り、それにつられて生徒達も拍手を送る。
だが、梓と咲耶は拍手をしなかった。
梓はもちろんの事だが、咲耶も焼石に聞いていたので知っているのだ、南陽子が何者かを。

「しかしさっきの男性の声…一体誰だったんだ?」

先生が首をかしげる。

「…用務員さんが……突っ立ってる私を見かねて…叫んでくださったんですよ……」

南陽子は淡々と先生に言う。
先生は少し疑問を残しながらも、納得し南陽子に席に座るように指示した。
陽子は空いている席を見回して探す。
すると陽子は花瓶がおいてある席を見つけそこに近づく。
その席は言わずもがな、董子の席である。
陽子がその席に近づいたことで、梓と健太郎が同時に席を立った。
梓は健太郎も立ったことで一瞬固まってしまい、その間に健太郎が口を開いた。

「その席は亡くなった董子の席だ!座れねぇぞ!」

梓も頷く、が、その表情は少し弱弱しかった。
陽子は二人の顔を見ないまま答える。

「……そんなこと……知っているわ………」

陽子の口は微かに笑っている。
健太郎はその事に気がつき陽子に向っていく。

「お前何が可笑しいんだ!?」
「…何って…可笑しいのはあなたの方…亡くなられた方の……黙祷もさせてくれないの?」

健太郎はぐうの音が出なかった。
確かに黙祷する気で近づいて、それに茶々を入れられたら苦笑いしたくもなるだろう。

「わ…悪いな…俺…董子と仲良かったから思わず…」
「…別に……気にしてないわ…」

そういい陽子はひざを付き黙祷する。
そしてボソッと一言漏らす。

可愛そうに…殺されちゃうなんて……

その一言は健太郎にも、梓にも、そして咲耶にも聞こえていた。
聞こえるか聞こえないかの声だったが、明らかに聞かせる気で言ったのは明白だ。
梓は思わず陽子に斬りかかりたい気持ちになってしまったが、動くに動けない。
健太郎は目を丸くして固まっている。

「お前…今なんていった…?やっぱり董子は殺されたのか…?」

陽子は黙祷が終わると立ち上がり、他の空いてる席へと向った。

…無視すんなよ…

健太郎が思わず声を漏らす。
しかし陽子はその言葉も無視して席に着く。

無視してんじゃねぇよ!!

健太郎の怒声が教室に響く。
その声には先ほどの悪ふざけで董子の名前を出した生徒に怒ったときよりも、力がこもっていた。
陽子はその言葉も何処吹く風と聞き流した。
健太郎は思わず拳を握り陽子に殴りかかろうとするが、咲耶と梓に止められる。

「やめとき松沢くん!コイツ何言いよるかわからんで!」
「そうだよ!健太郎君を茶化してるだけだよ!」

二人に抑えられていても、健太郎は力を入れたままだった。
それほどまでに健太郎は董子を殺した相手を知りたかったのだ。
その二人の様子に陽子が微笑む。

「……よっぽど………その松沢くんに……知られたくない…みたいね……」

梓はギクッとする。確かに彼女は当事者であり健太郎が知りたがっている人物その人である。
咲耶は財団から死因を聞いては居ないので南陽子の言うことが本当かははっきりとはわからなかった。
しかし南陽子は自分を襲った「影の組織」の一人であるため、健太郎に何を吹き込むか不安であった。

「健太郎!落ち着いて座れ!鷹森も有沢も座んなさい」

健太郎はため息をつき力を抜く。
梓と咲耶も息をつき健太郎の腕を放す。
その瞬間、健太郎の右ストレートが陽子の顔面に炸裂する。
思わず先生も健太郎のところへと急いでくる。
しかし、健太郎の拳は陽子の顔面ぎりぎりで止まっている。
陽子は健太郎の拳に手を乗せ少しさする。

「…本当に…殴らないで止めてくれて……ありがとうね…」

その様子に先生は安堵の息を漏らす。
だが、健太郎本人と後ろに居た梓と咲耶は先生と考えが違った。
健太郎本人は本気で打ち出した拳が、まるで何者かに受け止められる感覚を味わっていたのだ。
梓はもちろんのこと、咲耶も似たような人物にあっていたのでそのことを理解していた。
それは陽子が普通の人間とは似て非なる魔族であることの証明ともいえる存在。
梓は健太郎のパンチを受け止めたということからその存在の回復を感じ取っていた。
それから先生は生徒達を落ち着け授業を始めた。
授業中は居たって何事も起こらなかったが、健太郎は頭が陽子の事へと行っている様でボーっとしていた。
梓と咲耶は不安で胸がいっぱいであった。それほど二人とも陽子のことを危険視しているのだ。

 そんなこんなで授業が終わり、下校時刻へとなった。
下校時刻といえば、南陽子が転入してきた時も一悶着あった時間帯である。
そのため梓と咲耶は身構えていたが、その問題の陽子は他の生徒と同様、颯爽と教室を後にした。
陽子が何事も起こさずに下校してくれるようなので二人とも安堵の息をもらした。

「はー!今日はなんか疲れちゃったなぁ…」

梓が息を漏らす。
すると咲耶も梓に言う。

「せやねー…なんかどエライ気使ってしまったわ…」

そう言い咲耶は肩をなでおろす。
その様子に梓は苦笑いをしながら言う。

「今日はいろいろあったからねぇ…健太郎が南陽子に殴りかかったのには驚いたよ正直」
「せやけど南さんに殴りかかるなんて健太郎はホンマに命知らずやねぇ…」
「え?どうして?」

梓は咲耶の一言に疑問を覚えた。
何故なら梓は南陽子と戦った事があるため健太郎の行為が命取りであることはわかっている。
しかし梓が南陽子と戦った事を知っているのは梓自身と南陽子本人とと今は亡き董子だけである。
さらにその戦いの事は階段から落ちたことにしたり交通事故にあったことにしたり誤魔化した。
なので南陽子との戦いのことは誰も知らないわけで、南陽子が危険なことも知られてないはずである。
そのため梓は咲耶に一瞬不信感を抱かざるを得なかった。

もしかして南陽子のことを知ってるの…!?咲耶…!

咲耶のほうも咲耶のほうでしまったと感じていた。
南陽子がこの前自分を襲ってきた東城静一の仲間であることは東城の口から聞いていた。
東城の仲間であるという時点で南陽子も危険な能力者である事を咲耶は理解していた。
だが自分が南陽子の仲間である東城に襲われたことを梓は知らない。
襲われたことを話してしまうと「何故襲われたのか」という話に発展してしまう。
そうなると自分の所属する財団の存在に梓が気がついてしまうかもしれないからだ。
そこで咲耶は何とか誤魔化す方法を得意の妄想で思いついた。

「そやかて健太郎がもし南さんを殴り飛ばしたら亡くなりよった董子ちゃんが嫉妬するで。
『健太郎ウチが好きやったから喧嘩吹っかけてたんやろ!ウチが死んですぐに浮気かコラ!』って。
要するに『健太郎が殴っていいのはウチだけやで!』ってことやな!」

咲耶は自分でだいぶ無理があったな…と心の中で思ったが、梓はなるほどーと納得の表情だ。
なんとか誤魔化せたと胸を撫で下ろした咲耶であったが、突如顔が青ざめる。
理由は自分のポケットの中から微かに聞こえてくる音。

「ありゃ、咲耶なんか電話かメール着てるんじゃない?」

梓もその音に気がついていた。その正体はスマートフォンの着信音である。
ただの着信であればどうということはないが、今回の着信音は普段とは違うものだ。

ひ…久々に来おった…!未来からのメール…!

唾を飲みこみ平静を装いながらにこやかに梓に言う。

「ホンマやね。メールや、ちょっと見てみるわ」

そういい咲耶は梓に画面が見えないようにさも自然に操作し始める。
やはり来ていたメールには件名も本文も記入されていない。
そして動画ファイルが添付されていた。
咲耶はこの未来予知のメールが今来るということは…と思い動画を再生する。

 画面にはかつて自分と健太郎、董子と梓の4人が誓い合った桜が移されている。
その下にいる人物は―

南…陽子…!?まだ校内におるのか…!

そしてその南陽子に近づく人物が一人。

ま…松沢君!?

刹那、梓が周りを見て気がつく。

「そういえば、健太郎はどうしたの?」

咲耶も動画からぱっと目を離しまわりを見る。
いつもなら自分を待っていてくれている健太郎が教室に居なかった。
咲耶は動画に目を戻すと驚愕のシーンが映っていた。

南陽子と話す健太郎。
だが、その健太郎を頭から食べようと大口を開ける黒い影。
その様子を見て咲耶は思わず声を上げる。

南陽子…!健太郎が危ない…!!

その一言を聞き梓はハッと気がつく。
健太郎は南陽子から犯人を聞き出そうとしていた。
逆にそれは南陽子が健太郎を誘い出す罠だと。

健太郎はどこに!?

梓が咲耶の肩を掴んで問い詰める。
咲耶は思わず場所を言う。

「私たちが誓い合った桜の下…!」

それを聞き梓は腰に刷いた刀を握り締め教室を駆け出る。
咲耶も後を追おうと思うが、まだ動画には続きがあった。
その動画の続きは、予想していなかった展開が映っていた。
それを見た瞬間、咲耶は駆け出した。

 梓は校庭へと駆け出た。
息を切らしながら周りを見回すと、思い出深い桜の木の下に人影が2つ。
その人影はまさに南陽子と健太郎だった。二人は何かを話しているようだ。
すると、健太郎の背後に黒い影が出現する。

あれは…暗男!

暗男は獣の様な口を大きく開けて健太郎の頭の上から喰らいつこうとする。
それを見た瞬間、梓は足に力を入れて踏み出す。

暗男ぉおおお!

梓は健太郎を助けるために猛スピードで暗男に斬りかかろうと突っ込む。
刹那、後を追ってきた咲耶が大声で叫ぶ。

だめぇ!梓ちゃん!罠よぉおおおお!!

しかしその声は梓には届いていなかった。
瞬間、暗男はニヤリとし南陽子の影に逃げ込んだ。
咲耶のその叫び声に健太郎と南陽子が気がつき咲耶のほうを見る。
しかし健太郎たちの視界に飛び込んできたのは、刀に手をかけて飛び掛ってくる梓であった。
健太郎はその様子に思わず呆然となっていたが、南陽子が叫ぶ。

松沢君!危ない!

南陽子は健太郎を庇うように抱きつき飛びよける。
梓の刀が南陽子の肩をかすめる。かすめた刀と南陽子の苦痛の表情を健太郎は見ていた。
南陽子は健太郎を抱きしめたまま地面に倒れこむ。
梓は南陽子の顔に刀を向ける。


南陽子!オトシマエ、つけさしてもらうよ!


肩にかすり傷を負った陽子は肩を押さえ苦悶の表情を浮かべる。
その様子をみて、健太郎が梓に言う。

「おい…梓…お前…俺を殺そうとしたのか…!?」

その一言にハッとする梓。

しまった…!

南陽子は健太郎の一言に便乗し口を開く。

「そうよ…健太郎君…!知られたくないのよ…!誰が獅子土さんを殺したかって事を…!
私が言わなくても…コレでわかったでしょ…!

鷹森梓が獅子土董子を殺したって事が!!

健太郎には信じがたい事ではあったが、信じるしかなかった。
何故なら、今まさに目にしている光景が、まさに真実そのものを物語っているように見えたからだ。

「梓…お…お前が!?」
「ち…ちがうよ!南陽子は健太郎に嘘をついてるんだ!!」
お前の刀は何なんだよっ!!

梓は南陽子に刀を向けっぱなしだったことに気がついた。
刀を握ったまま梓は力を抜き腕をだらんと下ろし目に涙を浮かべる。

ちがう…違うよ…!

健太郎は梓を睨んだまま南陽子に手を貸し起き上がる。
すると、健太郎はあるものに気がつく。

「おい…コレはなんだよ…」

健太郎は梓のポケットからはみ出ているものを引っ張り出した。
それは、董子のヘアバンドである。

「…それが…証拠よ健太郎君…鷹森さんが…獅子土さんを殺したって言う証拠よ…」
ちがう…ちがう…

梓にはそういうしかなかった、というよりはむしろ、そういう言葉しか出てこない。
董子を殺して一番悲しんでいるのは梓自身だったからだ。
殺したくて殺したわけじゃない、だが殺したのは事実。
しかしだからといってその事を認めたくはない。だから否定することしか出来ない。
南陽子のせいで周りに暴露されてしまうとなればなおさらだった。

ちがわねぇだろこの人殺しがぁ!!

健太郎の怒声が梓に叩きつけられる。
梓の目から涙が流れる。
その様子を、陽子と健太郎の後ろで声に出さずに大笑いする暗男。
暗男のその様子に思わず逆上しそうになる梓。
だが咲耶が後ろから梓を止める。

「ダメ!鷹森さん!それじゃ南さんの思うつぼよ!」

健太郎はその様子を見て咲耶に言う。

「離れろ咲耶!そいつは俺たちの仲間の董子を殺したんだぞ!!」
「知ってる!知ってるよ!でも聞いて!松沢くん!董子さんは魔物だったの!!
鷹森さんはそれを退治する退魔の人なんだよ!信じられないかもしれないけど!
鷹森さんは董子さんを殺したくて殺したんじゃないよ!理解してあげて!!お願い!!」

咲耶は必死になって、一生懸命になって訴えた。
南陽子は東城静一の仲間、健太郎を奴らの策略から守りたいという一身で訴えた。
しかし、その言葉を聞き、深刻な表情を浮かべる者が一人。

有沢さん…どうしてその事を…

梓は震えながら振り向き咲耶に言う。

しまった…!

咲耶は思わず口を押さえる。
が、咲耶はまた機転を利かせる。

「そう…そう妄想したんや!そうじゃなかったらそんな刀持ち歩かんし!
それにそうじゃなかったら鷹森さんが董子さんを殺すわけないやないか!」

そんな咲耶の必死な弁解を嘲笑する陽子。

「く…くくくくく!ずいぶんと…苦しい言い訳ね…」

咲耶は陽子を睨みつける。

「あんたは黙っとき!そもそもウチもあんたの仲間に襲われた身やで!
あんたが一番悪い輩だって言うのは百も承知や!!」
「悪い輩…ねぇ…」

陽子は目を伏せ再び笑う。そして目を見開く。

「それより…何であなたが襲われたのか…が大事なんじゃないの…?」

すると、咲耶のスカートの中から何かが落ちた。
それはボールのように弾むことなく足元に一直線に落下した。
落ちたものを見て健太郎は目を見開いて驚愕する。

「拳…銃!?」

梓もそれを見て信じられないと言った表情をする。
その拳銃は咲耶がいつも持ち歩いているオートマチック銃である。

どうして落ちた…!?足のホルスターに掛けておいたのに…!

混乱する咲耶であったが、自分の足元を見てその理由がはっきりとした。
彼女の足元の影に暗男が居た。暗男が意図的に銃を落としたということだ。
暗男はすぐに南陽子の影へと逃げ帰ったため、咲耶は暗男の仕業と言う事を言う事ができなかった。
暗男「ちなみに咲耶の牝くせぇパンツクンカクンカしたぜ!」 陽子「…暗男…怒るよ?」
「そんな物を持ち歩いて…仲のいいクラスメイトを監視していた…襲われる理にかなってるわね…」
「どう…言うこと…?」

梓が思わずこぼす。

「つまり…有沢さんはあなたと董子さんを監視していた…だからあなたの事を知っていたのよ…」

陽子はそういうと健太郎を守るように健太郎を梓と咲耶から引き離す。

「わかった…?確かに有沢さんの言うとおり…鷹森さんは退魔の一族か何かだけど…
それもただの思い込み…かもね…獅子土さんを殺したいから…殺したのよ鷹森さんは…
それに咲耶さんは…そんな鷹森さんや獅子土さんを…親友のふりして…監視する…
どこぞのとんでもない悪女なのよ…!」

その言葉は梓と咲耶の二人を一気に怒らせた。
梓は刀を振りかざし、咲耶は落ちた拳銃を拾い上げ発砲しようとする。

やめろよ!!

そんな二人を止めたのは、健太郎だった。
梓と咲耶は健太郎の一言で硬直する。しかし二人とも息が荒く、震えていた。

「お前らが…そんな奴らだったなんて…!マジで騙されてたぜ…!
梓が董子を殺した事も…咲耶が監視してたってことも…今なら良くわかるぜ!
俺はとんでもない奴と今まで仲良くしてたんだなって事がよ!!」

健太郎は顔面をくしゃくしゃにしたように涙を流していた。
その表情を見て、梓も咲耶も武器を下ろし思わずつられて涙を流す。
腕で涙を拭いながら健太郎は駐輪場のほうへ歩いていく。

「俺は…梓をゆるさねぇ…もう…咲耶とも話したくねぇ…!」

健太郎はバイクに乗り校門へと一気に走らせた。

 その様子を見ていた梓と咲耶は健太郎に声をかける事が出来なかった。
秘密がすべて明かされてしまった事により二人は絶望に打ちひしがれていた。
そんな二人を見て暗男が大声で笑う。

「ヒャッハッハッハハハハハハ!!めちゃくちゃおもしれぇ!!マジで陽子の言ったとおりになったぜぇ!」
「…こんなものよ……『仲間にならないロードは殺せ』とのことだけど…
こうやって…ロード同士で仲間割れさせてしまえば…そのロードが組むなんてこと…なくなるからね…
そもそも…私と暗男の信頼関係と違って…友情なんて…こんなものよ…馬鹿馬鹿しいわね…」

その言葉を聴き涙を流しながら梓と咲耶は南陽子に対し武器を構える。
だが、瞬時に南陽子と暗男は夜の闇の中へと消え、武器を構えた二人がそこに取り残された。
梓と咲耶は顔をお互いに顔を見る。

「鷹森さん…」

咲耶が声をかける、が、梓はそっぽを向く。
そして刀を鞘に収め息を吐く。

「有沢…さん…南さんの言っていた事…本当なのね…」

梓は咲耶を見ようとしない。咲耶は梓の背中に対して言う。

「ゴメン…もう…嘘つけないね…私…ある組織の一員なんだ…任務があって…監視してたの…でも」

『でも、任務を忘れて本当に友達としていたんだよ』と言おうとした咲耶であったが、
梓が収めていた刀をいつの間にか抜き、咲耶の喉元に向けていた為言う事が出来なかった。

「あなたの組織ね…メリッサさんを狙撃したのは…董子ちゃんを怒らせる要因を作ったのは…」

梓が咲耶を睨みつけながら問う。咲耶は何もいえなかった。
彼女の任務は監視だけなので狙撃したのが自分の財団かまではわからない。
だが、今下手に声を出すと殺される、そう考えてしまった。
咲耶は無言で梓を見つめる。梓はそんな咲耶の目を見て、刀を下ろす。

「あたしの前から消えて。咲耶とは友達だったから…見逃してあげる…
いや…私は退魔の一族…人間を傷つける事は出来ない…恨んでる相手だとしても…
それに…健太郎から董子ちゃんのほかに有沢まで奪うわけには行かない…
だから…見逃してあげるけど…二度とあたしの前に現れないで…監視なんかしないで…
もし…監視されてることがわかったら…オトシマエつけてもらうよ…

咲耶は涙をぐっとこらえ梓に言う。

「…鷹森さんゴメンね…さようなら…!

咲耶は頭を下げ謝罪しそこから走り去った。
梓も涙をこらえ空を見上げる。
空を見上げた視界に、綺麗な桜が映る。

皮肉にも、彼女達の絆が崩壊したのは、

絆を誓い合った桜の下であった。
ちなみに健太郎は董子のヘアバンドを持って帰って一人エッチしてます)`ν°)・;’.、

続く


作:ドュラハン