市に虎を放つ如し



第二十七話 Electric Weve Jacking & Human Hunting


 数多くのチューブに繋がれ植物人間のようになっている鷹森梓。
そんな彼女の目から一筋の涙が伝う。それと同時に彼女の目がゆっくり開いた。

「…知ってる天井だぁ…私の部屋の…」

梓は天井が自分の部屋のものである事を確認して自分が戻ってきたことを確認した。
夢か現実かは定かではないが、確かに自分は「あの世」の手前で董子ちゃんに会った。
そして自分の自信と決意を取り戻すと共に親友達との希望を感じ取った。
もう迷わない、立ち止まらない、梓は強い覚悟を胸に起き上がる。

「…ってなんじゃこりゃぁーー!」

梓は自分の身体に取り付けられたチューブをみて思わず仰天する。

「う〜こんなについてるって事はやっぱりあたしあの世に一回行ったんだなぁ〜」

そう一人で呟きながらチューブをぶちぶちと抜いていく梓。
抜きながら「果たして抜いて良いのかな?」とも疑問に思っていたが、お腹が空いて何か食べたい気持ちでいっぱいであった。
チューブを全部抜き部屋の明かりをつける。部屋は幻覚に悩まされた頃から変わっておらず、ようするに片付いていない。
梓はため息をつきながら散らかった部屋を見渡す。するとハムスターの飼育ケースに目が行った。
梓は急いでケースを開け、中から公太郎を手のひらに乗せて持ち上げる。公太郎は衰弱しており今にも死にそうだった。
梓はすぐにケースの横に置いてあったハムスターの餌を公太郎に食べさせる。公太郎は餌を無我夢中で食べ始めた。
その様子に梓は安心すると自分も食事をしたいと思いお腹をさするが、自分の体の異変に気が付いた。
お腹が凄くへこんでいることに気がつき梓はすぐに鏡の前へと向った。鏡を見て梓は再び仰天する。頬からも少し肉が落ち骨ばっている。

「うぁわああああ!骨骨!」

そう言いながら梓は色んなポーズをとり骨と皮だけになってる自分をちょっと楽しむ。
だが自分の胸がさらに小さくなっている事に気がつき軽く抑える。そしてちょっと不機嫌そうな顔をして公太郎に言う。

「骨ばってて体重は軽くなったって?うるさいなぁ、胸まで小さくなってるじゃん。誰も私の胸なんて興味ない?うるさいよ公太郎!」

そう言いにこやかに微笑んだ。

公太郎をケースに戻し梓は部屋の襖を開ける。睡眠も食事もとっていなかったので昼夜感覚がめちゃくちゃになっていた梓。
今はどうやら夜で月が空に昇っていた。

「…ちょうど晩御飯時かなぁ?ご飯あれば良いけど…」

梓はそう呟きながら家の縁の部分を歩いていく。その途中に藤浦と柿村、須田の三人に出くわす。

「あ、みんなー!」

梓が軽く手を振り声をかける。すると三人は仰天した顔をして思わず叫ぶ。

「お…お嬢の幽霊ぇえええ!?」
「まだ死んでないぞー!!」

思わず梓も速攻で突っ込みを入れる。

「す…スミマセンお嬢、顔色も凄い悪いですしまさか此処まで歩いてくるとは思ってなく…」
「そ…それに白いパジャマだからなおさら…スンマセン驚いて…」
「手足も凄い細くなってますし…頬も…」

三人はそれぞれ謝罪をする。

「なんか謝りつつ驚いた理由を言われると貶されてる気分になるなぁ」
「めっ滅相もございません!!」

三人は必死に首を横に振る。そんな三人を見て梓は顔を綻ばせる。

「いいよいいよ、んで、お父さんは居間かな?晩御飯時だと良いんだけど」
「へえ、居間にいらっしゃいます。お嬢の食事も用意しましょうか」
「お願いね!」

梓は微笑みながらお願いした。

「了解しました!」

梓の様子に三人はとても良い気分に了解する。そして三人じゃれ合いつつその場を後にした。

「お父さん居るー?」

梓は居間の襖を開きながら尋ねた。父、満時は食事をしておりご飯をほおばっていたが、梓を見た瞬間に泣き叫んだ。

あ゛ずざぁあぁあぁあぁぁ!!!うヴォォぁあぁああぁああ!!!

泣き叫びながら片足が不自由とは思えない勢いで梓に飛びつく。

「口!口からご飯が!汚いよ!おとうさん!」

それでも梓は父のぬくもりがとても心地よかった。

「う…む…スマナイ、私としたことが取り乱してしまった…けど起き来て大丈夫なの?」
「うん、元気になったよ。信じてくれなくて良いけど、夢の中で董子ちゃんが励ましてくれた…」
「なんて励ましてくれたんだい?」

梓は少し恥ずかしがるように微笑む。

「あたしが皆を守らなきゃいけないって事を気づかせてくれた…あたしの力を信じるように励ましてくれた…!」

その言葉を聞き満時は梓を抱きしめる。

「梓…良かった…!それでこそ…私の娘であり…退魔師鷹森梓だ…!」

梓も満時を抱き返す、が、その拍子にお腹が音を立ててなる。その音を聞いた満時は少し恥ずかしそうに口を開く。

「あ…梓、久々に一緒に…ご飯を食べようか…?」
「うん!良いよおとうさん!」

その満時の提案に梓は満面の笑みで答えた。梓の晩御飯が運ばれてくると共に姉のしとみも居間にやってきた。
鷹森家の家族が居間に集まり晩御飯を一緒に食べる、梓は久々の一家団欒を楽しんだ。
だがその一家団欒も、すぐに崩壊する事件が起こった。


 晩御飯をほおばりながらテレビのリモコンを手に取りテレビをつける梓。

「あずさ、メッ!」
「え?なにおとうさん、そのメッ!っていうのは」

梓は満時の幼児を叱るような言葉特徴に思わず苦笑いする。

「ご飯食べてるときにテレビつけたらダメっていうこと!ちゃんと食べ終わってから見なさい!」
「いーじゃん!今のあたし情報に凄い疎くなってるんだから、ずっと凹んでて。
 だからあたしが凹んでる間に何があったのかニュースで知りたいの!」

満時はその言葉に息を詰まらせる。それもそのはず、梓は橋本渉が死んだ事と、橋本組が壊滅したことをしらない。
話さなければとも思っているが、今話すわけにもいかないだろう。
夢の中で死んだ親友の董子に励まされて立ち直ったとはいえ、渉が死んだ事を伝えられたらどうなるか。
しとみもその事に気が付いたのか、少し表情が硬くなっていた。
なおかつテレビのニュースで「橋本組壊滅」の報道が流れる可能性もある。
橋本組はそれなりに大きな組織であったことに加え知名度もそれなりにあるヤクザであったからだ。
満時が心配する中、梓はテレビのチャンネルをバラエティ番組にしていた。
バラエティ番組では芸人達が面白おかしく談笑をしている。梓もそれに釣られて笑っている。
満時はその梓の表情をみて安堵の息を漏らすと共に、他の機会に橋本組の事を話そうと思う。
が、突如テレビの画面が音を立てて消える。

「おとうさんテレビ消さないでよ!」
「え?おとうさんは消してないよ?」

リモコンは梓の前においてあり誰も触ってはいなかった。

「テレビの故障…ですかね?電源はついているようですが…」

しとみがテレビの電源を確認する。梓はリモコンで色んなチャンネルを押してみる。

「故障みたいだー、どのチャンネルもつかない」

そういった瞬間、再びテレビの画面が音を立てて映る。だが、そこに映っていたものを見てその場は凍りつく。

「なにこれ…」

画面には拷問部屋のような所で椅子に縛られ俯いている金髪の男が映っていた。服はボロボロでいたるところに血の跡がついている。
それもまだ新しいようで綺麗な赤をしている。頭にも怪我を負っているのか、金髪の頭に赤い部分が出来ている。

「こんな時間にホラー映画をやっているんですかね?」

しとみが言葉をこぼす。が、満時は目を丸くし画面に釘付けになったまま動かない。
梓はテレビのチャンネルを変えようとリモコンを操作するが、画面は変わらない。

「どうなってるの…?」

梓は首をかしげる。すると満時が口を開く。

「篠崎…!?」

その一言に梓としとみは画面の男に注目する。椅子に縛られたその男の服には鷹森組のバッチが付けられていた。
その男は何かに気がつき顔を上げる。殴られた傷跡が目立つが、その顔は確かに篠崎であった。

「一体…どういう事…!?これは…」

梓はわけが分からないまま画面を見ている。すると画面から男の声が聞こえる。

『もうこれ映ってんのか?良いだろう、始めよう』

その言葉と共に部屋が明るくなり、画面に男が一人映りこむ。男は金髪で顔にピアスを大量に入れた男であった。
男は深くお辞儀をしながら話し始める。

『レディース&ジェントルメン、腐った政治家諸君、脳みそが足りねぇ警察達、平和ボケしたクズ共、
 そして「ムカツク奴は魔物だって理由付けして殺す」自称退魔師イカレポンチ鷹森組の皆さんこんばんは』

その言葉に梓の背に冷汗が吹き出す。それと同時に襖が開き、柿村が鬼気迫る顔で急いで入ってくる。

「親分…!テレビで…」
「分かってる…今丁度見てるところだ…」

柿村に続き須田も入ってくる。

「テレビだけじゃないっす…携帯のワンセグにも篠崎とこの男が…!」

柿村、須田に続き藤浦も大急ぎで入ってくる。

「外回りの連中から連絡が入りました!電気屋のテレビにも篠崎が映ってます!」

その言葉に満時は仰天し顔を強張らせる。

「まさか…この放送は…」

満時のその言葉に答える用に画面の中の男が話す。

『この放送はテレビやネット、携帯などすべての機器の電波をジャックして放送中、全国ネットで配信してるってわけだ』

その男の言うとおりテレビに映ってるだけでなく街中の店頭テレビやビルのスクリーンにも映っていた。
もちろんこのテレビを見ていたのは梓だけではなかった。
ビルのスクリーンに映る映像を見上げていた人々の中に健太郎も混ざってスクリーンを見上げていた。

「今…鷹森組つったか…?梓の苗字…やっぱりアイツはヤクザでヤバイ奴だったのか…?
 でもコイツの方がイカれてる…こんなもん全国で流してなんになるんだ?一発殴りてぇ…」

自宅にいた咲耶のスマホにもこの様子は映し出されていた。

「一体…どういう事やね…鷹森組…梓があぶないんちゃう…!?」

しかし咲耶はどうすることも出来ないと思っていた。自分がしていた事と梓に言われた一言を考えると、この事を教えも出来なかった。

「梓…見てるやろうか…とんでもない事になってるで…!」

また、とあるビルの会議室でもこの映像がテレビで流されていた。様々な役員が映像にどよめいている。その中の一人がPCを画面に出力する。
PCから出力した映像だが、テレビで流れているものとまったく変わらない内容がPCにも流れているのだ。

「社長…!映像媒体だけでなくインターネットのページ全てがこの映像のページに…とんでもない力ですよ…!」

その言葉を聞いて社長と呼ばれた男、四ツ和財団社長四和誠一郎は微笑を浮かべる。

「だからと言って、ジャックしたのがこの男の能力かはまだ分からないぞ?」
「しかしコレだけの力…『ロード』のものだと判断しても良いのではないでしょうか?」

その言葉を聞き他の役員達も納得の声を上げざわめく。しかし四和誠一郎は指摘するように首と指を横に振る。

「ロードとは力だけではないのだよ。まぁロードが強力な力を持っている事は変わりない。
 しかし『ロード=強力なもの』と解釈しているようでは君達もまだまだだという事だ」

そう言い四和誠一郎は不敵な笑みを浮かべる。

「クク…この男の言い方からすると橋本組と何か関係のある暴力団…つまり焼石とも関係があるはず…
 上手くその関係性を示してくれれば…この放送と相成って我々にとても良く作用してくれるはずだ…!」

また別のところ、高級マンションの一室ではこの事態にてんわやんわになっている裸の男が。

「あのボケナス北条院ッ!なんてことしやがるんだ…!!全国放送だとぉ!?あのボケナスめ!」

そう言い急いで服を着ているのは焼石である。シャワールームからそんな焼石に女性の声がかかる。

「どうしたのー?とおるん、私が待ちきれなくなった?」
「そうじゃねぇ、北条院のボケナスが鷹森組に喧嘩売りやがった!」
「それは大変!梓ちゃん、やっと立ち直ったのに」

焼石はいつもの赤い背広を着ると赤い長髪を縛り上げ気合をいれる。そして部屋を後にしようとするが、それに気づいた女性が思わず止める。

「ちょ、ちょっととおるん!私とのイチャイチャタイムはどうするの!?」
「それどころじゃないんだよ!一大事なんだよ!」
「私だってそれどころじゃないわ!とおるんの連れて来た女の子の修行にロードの能力使用…
 とおるんの肉体でその疲れを癒してもらうのがイチャイチャタイムじゃないの!」

そういうと女性はシャワールームから裸のまま飛び出し焼石に抱きつく。

「だぁあああ!離してくれ!服が濡れるしマジでそれどころじゃないんだよ!」
「気持ちよくイクまで離しませんよー!」

そう言い焼石を馬乗りにする女性、彼女の長髪は水色をしていた。焼石が女性と大変な事になっている間もテレビでは放送が続いていた。
梓としとみ、満時と幹部三人は張り付くようにテレビを見ている。

『俺の名前は北条院明彦、知らないノータリンのために説明すると、最近イカレポンチの鷹森組に
 ぶっ潰された橋本組って組織と同系の組、北条院組の組長をやらしてもらってるもんだ』
「橋本組を潰した!?どういう事!?」

思わず梓は声を上げる。満時が話そうとした瞬間、その満時の言葉をさえぎるように北条院が話し始める。

『人間である橋本組の組長である渉を殺してよぉ、それでも気ぃ収まんなくて組自体潰したんだぜ鷹森組ってのは。
 なおかつ「橋本組は魔物の集団だから」って理由つけて抗争を正当化しようとしてる奴等なんだぜ?』
「わ…渉さんを殺したって嘘でしょ?お父さん…」
「もちろん殺すわけない…何者かに『我々の銃』で射殺されたのだ…誰かがうちの組に罪を擦り付けるために…」

画面の中の北条院は何かに頭にきているのか、目の周りをぴくぴく動かしていた。
そして椅子に縛られている篠崎に近づき髪の毛を掴み顔がしっかり映るように引っ張った。
画面がズームアップされていき、北条院と篠崎の二人がしっかり見えるように映し出される。

『コイツはその鷹森組の一員の篠崎って奴だ。渉を殺された仕返しの手始めにコイツを始末してやろうと思ってな』

その言葉に梓は思わずテレビの電源を消そうとするがリモコンが効かない。
しとみは食器を手に取りテレビに投げつけようとするが満時がそれを制す。

「止めるんだ…!篠崎が犠牲となって死ぬのを見ないのは…逆に篠崎に失礼だ…!
 こうなってしまったのは我々の責任だ…!同じ組員として見届けるのが『家族』と言う物だ…!」

その言葉に柿村、須田、藤浦は涙を流す。

「篠崎ぃ〜〜〜!!」

北条院は至極楽しそうな表情をして篠崎に言う。

『ほれ、テメェの組のウジ共も見てくれてるぜ?』

北条院に髪をつかまれた篠崎は画面に向って謝罪した。

『親父…!お嬢…!申し訳…ねぇです!コイツ…銃も刀も全くきかなく…!』

瞬間、篠崎の鼻の横に北条院の拳が殴りこまれる。篠崎の鼻が曲がり鼻血が吹き出る。

『なぁにネタバレしようとしてんだよぉテメェ…今テメェがすることは俺様に対する命乞いだろ?
 泣きながらしてくれよ、な!楽しい楽しい命乞いをよぉ!』

その言葉を聞き篠崎は口をつむぐ。本当は何か訴えたい気持ちでいっぱいの様だが、それを耐えているようだった。
その様子に北条院は嘲笑を浮かべ篠崎に言う。

『そういえばオメェ、そのお嬢っていう鷹森処女梓をわらかす無茶振りをさせられたそうじゃねぇか、
 それみたいな感じでいっちょ笑える命乞いの一つでもお願いするぜ』

その北条院の言葉に篠崎は静かに口を開いた。

『全国で見てる人々に言おう、これが魔物のやり方だ…!魔物なんている訳ないと言うやつもいるだろうが…』

瞬間、篠崎の両目に北条院の指が突き刺さる。

『テメェ何言ってやがる!魔物?魔物じゃなくてもテメェら人間も、ヤクザならやってるだろうが!』

目を潰されても篠崎は悲鳴も上げずに淡々と続ける。

『いや、魔物の存在は今は関係ない…北条院組がどれだけ危険か…!今この状況でわかるだろう…!
 逆に…鷹森組は…北条院組とは違い…人々を傷つける事自体しない…!人間らしい組織だ!
 俺達の任務は…お前みたいな魔物から人々を守る事にあるんだぜ…!北条院明彦!!』

そう言い終わると篠崎は思いっきり口を閉じようとする。その行為を満時は分かった、篠崎が『舌を噛み切って自殺』しようとしていると。
だが北条院もその事に気がつき手を篠崎の口の中に突き入れ自殺の妨げをする。その北条院の行動を見た梓が声を上げる。

「篠崎さん!そのままそいつの手を思いっきり噛み切ってやれ!!」

するとテレビの中の北条院が画面の向こうからこちらに向って言う。

『そうはいかねぇぜ?見てみぃ?』

そういうと北条院は手を抜き取る。手を抜き取られた篠崎の口は歯が砕け、下顎が外れているようだった。
その様に北条院は不機嫌そうな眼差しを向け舌打ちをする。

『俺に噛み付いたのが悪かったなぁ篠崎ぃ…これじゃあテメェ!命乞いが出来ねぇじゃねぇか!!』

そういうと北条院は篠崎の外れた顎をさらに下へと引きおろす。篠崎の顎が完全に顔から切断され、口からも血が流れ出る。

『もうこうなったら助からんなぁ、ま、最初から殺す気だけどな!
 …そうだな先ほど好き放題言ってくれたテメェに俺からも幾つか言って置こう…』

北条院は一呼吸置くと篠崎の耳に向って言う。

『金髪でピアスだぁ?テメェ俺とキャラが被ってんだよぉ!!テメェを選んだ理由もそこなんだよぉコラァ!
 小説だから良いけどなぁ、映像作品だと「え、兄弟?」とか思われるほどだぞコン畜生が!!』

北条院の訴えに思わず満時が言葉を漏らす。

「メタだ」
「これは酷い。拷問の様じゃなくてこのメタが」

梓も思わず漏らす。それに続いてしとみも呆れながら言う。

「仕方ないのでしょう、リレー小説ですから。人様のキャラクターを惨たらしく殺すのは相手に申し訳ない。
 そのためギャグをはさんでその惨さを少しでも緩和させようとしているのでしょう…」
「仕方ないね」

メタな発言を終えた北条院は落ち着いたのか息を漏らす。

『さて、このままほっといてもコイツは死ぬが…出血多量で死ぬってのはぶっちゃけつまらねぇ。
 そこで…鷹森組の蚊トンボ共にちょっとしたショーを見せてやろう…カメラ引いてくれ』

画面はズームアウトしていき、篠崎と北条院の全身が移る。北条院は両手で篠崎の頭を抑える。すると部屋が最初のときのように薄暗くなる。

『よーし、見てろよ?』

北条院がそういうと、北条院の周りが青白く光りだしていることが分かる。
それと同時に機械音が、まるでカメラのフラッシュを充電するような音が部屋に鳴り響く。
次の瞬間、けたたましい音と共に篠崎の身体に電撃が流し込まれる。
篠崎の骨格が浮かび上がるほど、部屋が青白く明るくなるほどの電撃が放出される。
その電撃の中北条院は歓喜ともとれる笑い声を浮かべる。電撃が止むと北条院だけ青白い電気をまとっていた。
部屋の電気がつくと、北条院の手には電撃により黒焦げになった篠崎の亡骸が。

『く…くく…はははははははは!!焼石の野郎じゃなくても人間一人黒焦げにするのは楽勝だぜ!ははははは!!』

そういうと黒焦げになった篠崎を椅子ごと倒す。その様子に梓は握りこぶしを握る。

「コイツ…!絶対に許さない…絶対にオトシマエつけてもらうよ…!!」

すると北条院は不敵な笑みを浮かべる。


『さて、こっから本題にでも入ろうか。何故これが全国ネットで放送されてるかってのをな』
「今からが本題…!?一体どういう事だ…何を企む北条院…!!」

満時は険しい表情を浮かべる。

『よく考えてみな、ただテメェら鷹森組に喧嘩を売るだけなら篠崎の死体とコレを収めたDVDでもなんでも、
 それをテメェらに送りつけてお仕舞い。だが全国ネットで生中継させてもらった。その意図は分かるか?』
「何を考えているのかサッパリですね…全国ネットで…そもそも警察が黙ってないでしょう…」
「たしかに、ヤクザの抗争そのものにも普通警察が動く…これでは自分を逮捕してくれと言っているものだ…」

しとみの意見に満時も頷く。しかし北条院はやれやれと首を振る。

『この放送は警察に目を付けられても「不特定多数」が見てるって事に意味があるんだぜ?
 …おい、ワイプには出来るか?…よーしそれなら「本題」を伝えよう。俺をカメラで追ってくれ』

北条院はカメラに指示を送りながら画面の端へと移動する。
それにあわせてカメラが後を追うと、画面に北条院と山のように積み上げられた札束が映る。
その瞬間、街中のスクリーンで見ていた大勢の人々が沸き上がった。

『これはうちの組の全財産だ。70億ちょいあるはずだぜ。コレを賞金に面白いゲームを提案しよう。
 「マンハント」、つまり「人間狩り」さぁ。さて、その賞金を賭けられる首は…コイツだ!!』

そういうと北条院は指をならす。
すると画面はワイプになり、北条院の映っていた画面が小さくなり、画面に大きく別のものが映し出される。
その映っているものを見た瞬間、テレビを見ていた梓としとみ、満時、その場にいた幹部達も固まった。
画面に大きく映されているもの、それは梓自身であった。さらに驚くべき事に、『リアルタイムで今テレビを見ている梓自身』であった。
テレビを見ているのにまるで鏡を見ているような錯覚に陥るほどであった。

「あ…あたし…が…標的…!?」
『あ…あたし…が…標的…!?』

梓が言葉を発するとテレビの中の梓も全く同じ言葉を喋った。

「どういうこと!?家にカメラでも仕掛けられてるの!?」

梓は思わず周りを見渡すが、それらしいものはもちろんない。映像は真正面から撮られている構図だが目の前にはテレビしかない。

『どうやってテメェの顔を撮ってるかは秘密だ。まぁそれは置いといて全国のクズ共、こいつが鷹森梓だ。
 骨と皮だけみてぇだろ?こう見えても頭イカれた親父の命令で人をぶっ殺しまくってんだ。
 精神的にこうなってもしかたねぇっちゃしかたねぇよな?ある意味かわいそーに!』
「あんたに可哀想って思われたくもないわ!この魔物め!」
『ハッ!魔物ねぇ、ムカツク奴は全員魔物って教わってきたのかな?ノータリン』

ノータリンと言われ梓は思わず自分の学歴の事を思い出してしまいぐうの音も出なかった。確かに成績は悪い方だ。

「てかあんた馬鹿じゃないの?あたしの仲間をビリビリ感電死させて、あれこそ『自分が魔物です』って言ってるじゃないの!」
『手品の類だよ手品の類!まぁそれはそうと、賞金首になった感想はどうだ?』
「お前の仲間が首を狙ってきても…全員返り討ちにしてやるんだから!!」

梓はそう言い睨みつける、が、北条院はその表情を見てニヤニヤしてる。

『やっぱテメェは脳みそがパープリンみたいだな、もっと詳しく説明してやるさぁ』
「なんだと…?」

すると画面が切り替わり北条院と梓の他に様々な説明が書かれた画面が表示された。北条院はその画面に書かれたことを説明していく。

『この「鷹森梓狩り」は年齢性別職業は問わねぇ、警察ももちろん参加OKだ。平和ボケした生活に刺激を与えようぜ?
 時間は無制限、この放送が終わってからスタートとしようか。だから北海道からでも沖縄からでも参加可能だ。
 さて、賞金70億についてだが、条件は梓を「生きたまま」俺の所までつれてきたら渡そうじゃねぇか。
 しかし一人で梓を捕まえるってのは流石に無理だろう。だから見ず知らずの連中と協力して捕まえてみな。
 俺のところに連れて来た時点で賞金を人数に応じて分配しようじゃねぇか。
 もし二人で捕まえられたら一人頭35億、70人で捕まえても一人頭1億だぜ?すげぇお得だろ?』
「馬鹿なの!?そんなにお金がかかっても、『人間狩り』なんてやる人は居ないわ!!」
『分かってねぇなぁ梓は。「女一匹で70億」だぜ?参加しねぇ奴なんて居ねぇさ』

思わず梓は息を詰まらせる。宝くじでさえ最高6億なのに対し、上手くいけば70億、大人数でも1億は硬い勝負なのだ。
なおかつ全国放送だといった。一般人はともかく、どこぞの不良やチンピラ、または殺し屋も集まるかもしれない。
さらには名前も知らないようなヤクザの組織が便乗して賞金を狙うと共に鷹森組をつぶしに来るかもしれない。

『ちなみに鷹森組は「人間は絶対に殺さない」とかある意味矛盾した考えを持ってるらしいぜ?
 ムカツク奴を「魔物扱い」する癖によお!だから参加者は一応「人間」だけって付け加えておくぜ。
 クズの人間諸君は怪我するかも知れないが命は絶対に保障されてると考えて良いぜ?』
「逆に絶対怪我は負わせてやるわ…!お前に踊らされるような連中にはキツイお灸を据えないといけなさそうだしね!」

梓はそういうと手の骨を鳴らす。梓の言葉と動作に北条院は思わず笑う。

『おいおい脅しになってねぇよ梓ぁ!テメェみたいな骨と皮みてぇな奴にボコられる奴はそもそも参加しねぇよ!』
「ではこの脅しではどうかな?」

梓の横に満時が寄り添う。それと共にこわもての須田や柿村、藤浦が二人を囲む様に集まる。
その様子はしっかりテレビ画面にも映されており、梓をこわもてのヤクザが囲んでいる様子が放送されている。

「全国ネットという事なら俺も自己紹介させてもらおう…鷹森組組長にして元『退魔師』鷹森満時。
 現役の『退魔師』である梓の実父だ。娘が狙われた以上親が黙ってないと言うことを理解していただきたい」
「そして俺らは幹部であり若頭さ。お嬢を狙う奴は俺たちが黙ってねぇぞ!」

柿村が握りこぶしを握りながら言う。須田と藤浦は腕を組み無言の圧力をかもし出している。
梓を囲む男達の威圧感はすべてのテレビに伝わっていた。

「命はとらぬが、我々は『退魔師』であり、一般市民が言うところの『暴力団』であることをお忘れなく」

満時は静かに淡々と言葉を話す。その言葉の話し方の背景には強い怒りが込められていた。
そんな満時を北条院は威嚇するかのように睨みつける。

『テメェが満時か…テメェは殺してやりてぇぜ』
「それなら俺を自分で殺しに来れば良いだろ北条院よ、お前は臆病者だな。全国に顔を見せてるだけで中身は小心者のガキに過ぎない。」

その言葉に北条院は目を見開く。

『・・・あ・・・?』
「言葉の通りだ北条院。お前は安全な所から一般市民をたきつける事しか出来ない小心者だ。
 所詮はその程度。自分から我々の本部に乗り込んでくる事も出来ない腑抜けだ。
 顔を晒しているが何処にいるかは話していない。結局のところ自分の安全が最優先という事だな」

そう言い満時は嘲笑を浮かべる。北条院は目を見開いたままだったが、かなり頭にきているらしく再び電流をまとい始める。
電流を身にまとい目を見開いたままの北条院の口元が笑みを浮かべる。

『良いだろう…俺が今すぐにでもテメェのところに乗り込んでやるぜ…!』

その言葉を聞き満時は心の中でしてやったりと思った。
北条院自らが鷹森組に攻めてくるという事はつまり『マンハント』を自分で中止するという事だ。
北条院の性格からすれば自分自らが手を下す際には誰にも邪魔されたくないだろうと満時は踏んだ。
中止となりさらに北条院から邪魔をするなと言われれば一般人が梓を狙いにくることがなくなるだろう。
それでも梓を狙う者が来ると言うなら人払いの術をこの一帯にかけることも可能である。
あとは北条院とその組員を結界に入れて戦えば良いだけのこと。魔物との抗争はお手の物だからだ。
満時からすればこの展開はまさに北条院の性格を読んで挑発する事で成功したある種の作戦であった。

『そんな考えに乗るほど明彦さんは馬鹿じゃないですよ満時さん』

満時は思わずギョッとしまわりを見回す。確かに今女性が自分に話しかけていた。
だが周りは部下と梓達しか居ない。しかもその声はテレビから聞こえてきたわけでもなかった。
何故なら梓達にはその声は聞こえてなかったようだった。すると画面の中の北条院が落ち着くように深くため息をつく。

『ふー…頭に電流が上っちまったが…なるほどそういう魂胆か…満時ぃ…
 危うくテメェの罠にかかってこの「マンハント」が成立しなくなるところだったな…』

そういうと北条院は不敵な笑みを浮かべる。

『俺が安全な所からしか一般人をたきつける事ができない、か…それなら俺の居場所を教えてやるさ』

するとテレビ画面がルールの画面から今度は町の地図へと変わった。
その地図は安澄市の隣町である織笠市の地図であった。地図上には赤いマークが付けられている。
ワイプの中の北条院が説明し始める。

『このマークの位置が俺の居るところ、ようするに俺の本拠地さぁ。
 つまり「マンハント」に参加する連中はここまで梓を連れてくればゴールってわけだ。
 そして鷹森組も俺を殺しに来るんだったらここが中間ポイント。その後にボスである俺を倒せるかと言ったところだな。』
「分かりやすい説明ありがとうね。あたしは誰にも捕まることなくあんたにオトシマエつけさしてもらうよ!」

北条院の言葉に梓が返した。その梓の言葉を聞いた北条院は不敵な笑みを浮かべた。

『そうだな、梓テメェが直接来るなら一般人の連中にも来てもらっておこうぜ?』
「来てもらってどうするわけ?あんたが負けるところをギャラリーに見てもらうわけ?」
『まぁ、テメェが「マンハント」参加者に捕まらずに俺のところに来れたら戦闘で盛り上がるだろうな。
 「俺VS梓」…なかなかのタイトルマッチだぜ、ギャラリーがいると良いもんだ。まぁ俺がテメェに負けるわけないが…
 俺が思うにテメェが捕まってきたほうが熱い展開になると思うぜ?あとテメェが負けてもだ』
「どういう事?『マンハント』の参加者はあたしをあんたに差し出してお仕舞、あんたは私を殺してお仕舞じゃないの?」

その梓の言い分を聞いて北条院は大笑いする。

『いつ俺がテメェを殺すって言ったか?テメェは殺さねぇさ、だから「生け捕り」にしろってルールに決めたんだぜ?』
「なんだかんだで優しいねあんた。あたしの仲間の篠崎さんを惨たらしく殺した癖して。
 負けたらあたし惨たらしく殺されると思ってたけど」

梓がそういった瞬間、北条院は梓をみて舌なめずりをする。

『殺しはしねぇがテメェをめちゃくちゃに犯してやるぜぇ!処女だってなぁ?一番最初は俺が貰ってやるぜぇ!』

思わず梓の背筋が凍りつく。北条院は口からよだれを垂らしながら大笑いする。

『テメェが俺のを飲み込んでる様を全国ネットで放送して陵辱してやるぜぇ!もちろんテメェの親父にも見せ付けてやるさ。
 さらにその後集まってくれたギャラリーの連中にもお前を楽しんでもらおうってわけさぁ。面白いだろ?
 童貞諸君は奮って「マンハント」に参加してくれ。金も手に入る上に楽しい陵辱パーティに参加できるんだからよ!』

その様子を見てしとみは思わず口を押さえる。

「下品な上に狂った男…梓には指一本触れさせたくないわ…!」

しとみがそういった瞬間、北条院は笑いをやめて画面を見る。

『おやおやぁ?これは梓の母…いや、姉か。良いじゃねぇか…良し、決まった!姉も標的にしようぜ!』

その言葉に思わず満時が怒声を上げる。

「北条院!貴様は渉の仇討ちがしたいのだろう!?それなら何故鷹森組の頂点である私を狙わない!?」
『はっ!わかってるくせによぉ。俺はテメェを絶望のどん底に突き落としてやりてぇんだよ!
 娘達がしらねぇ男達に犯され汚され最終的には人間としての権限と人格も剥奪される…
 そんな娘を見た父親であるテメェの表情が俺はみてぇんだよ!それが渉に対するお前の償いだ!』

それを聞いて思わず梓は涙を流す。

「償いにならないよ!渉さんは女の子に暴行している様を見て喜ぶ人間じゃないよ!
 あたしの親友の…董子ちゃんの世話をしてくれていた人が…そんな事で喜ぶわけないじゃん!
 あんたは単純に渉さんを殺した犯人がわからないからとりあえず犯人らしきあたし達に罪を擦り付けて…
 その犯人と決めたあたしに怒りをぶつけて暴行する事でしか悲しみを発散できないだけよ!悲しすぎるよ!!」

梓のその言葉に北条院は思わず息を詰まらせる。が、梓に向って叫ぶ。

『テメェに俺の何がわかる!渉の何がわかるって言うんだ!ふざけた事いってんじゃねぇぞこのオボコがぁ!』
「わかるよ!あたしだって大切な親友の董子ちゃんが死んじゃったもん!その罪をあたしはあたし自身に着せてた!
 だからこんな骨と皮みたいになるまで悩んで悩んで溜め込んじゃったのよ!でもあんたの場合は違う!
 殺した犯人を捜そうとしてないでとりあえずあたし達のせいにして現実から逃げてるだけじゃん!」
『黙れ梓…黙りやがれ…!』

梓は首を振り話を続ける。

「どうして『マンハント』をしようという意思を『真犯人探し』に使おうとしないのよ!!本当の犯人が怖いの!?」
『黙れといったはずだぜこの雌豚がぁ!!』

北条院は画面に向って手のひらから電撃を発射する。しかしその電撃は画面に当たらずに別の方向へと飛んでいった。
北条院が電流をまとったまま肩で息をしている。

『あ…あぁ…カメラをぶっ壊しちゃいけねぇもんな、スマネェな…』

カメラを動かしているであろう何者かに北条院は軽く謝った。しかしすぐに画面の梓を睨みつけて叫びだす。

『説得するのがテメェの作戦か?あ?その手はくわねぇぜ梓ぁ!ますますテメェを犯したくなったぜ!
 今から「マンハント」を開催する!!標的は梓とその姉だ!!生かしたまま俺のところまでつれて来い!!良いな!!』

北条院がそう叫ぶと同時に、画面が暗くなり『Human Hunting START』と言う文字が浮かび上がる。
それを見て満時が言う。

「梓、しとみ、お前達は屋敷の奥へ隠れなさい。私と須田、柿村、藤浦の3人と仲間達で『人払い』と他の術でお前達を守る…」

その言葉に幹部である3人は声を合わせて呼応する。しかし梓は首を横に振る。

「お父さん…あたしは…北条院を倒しに行きます…」

満時はその言葉を聞き心配そうな表情を浮かべるが、ため息をつく。

「そうだな…梓は退魔師…北条院を倒しに行くのが先決だな…道中気をつけてくれ…!」
「頼んだわよあずさ…わたしまで行くと足を引っ張ってしまいそうだから…
 わたしはここで自分自身を守る事しか出来ない…サポートしてあげれなくてごめんね…
 けどあずさなら大丈夫…!きっと誰にも捕まらず北条院を倒せるわ…無事を願ってるわ…!」

しとみはそう言い梓を励ます。

「ありがとう・・・おねえちゃん」

しとみは梓の言葉に微笑む。

「だけど梓、惜しかったね、北条院の説得に失敗しちゃって…」
「うん…」

梓は寂しそうにうつむく。
何故なら最初は北条院の事を憎い相手だと思っていた。
しかし満時とのやり取りから北条院が結局のところ渉の仇討ちで動いていることが最終的にわかった。
仇討ち…あずさは自分もかつてその行動に身を任せていた。それが結果悪い方向に動いてしまった事もわかった。
そして親友との死別…その辛さからくる逃避行動と精神的な痛み…北条院はまさに自分と同じような立場を味わっている。
北条院のそんな姿を見て梓は、まるで南陽子に精神的に追い詰められていた自分を見ているような気持ちになったのだった…

続く

作:ドュラハン